アメリカ・オバマ政権が、日本政府に対して、冷戦時にアメリカなどが日本に提供した高濃度のプルトニウム約300キロを返還するよう求めていることが分かった。このプルトニウムは、茨城県東海村の高速炉臨界実験装置で核燃料用に使用するものだが、もし、軍事に転用するならば核兵器50発分にも相当すると言われる。オバマ政権は核テロ阻止の観点から、軍事利用可能な核物質が日本にあることを問題視しているという。

返還に反対する声も多かったが、アメリカからの度重なる要求を受けて、返還をめぐる協議が進んでいる。

今回のアメリカの要求は、日本とアジア諸国の平和を脅かすものと言ってもよい。なぜなら、「すぐにでも核兵器に転用可能な高濃度プルトニウムが日本国内にある」という事実それ自体が、北朝鮮や中国など、日本に核ミサイル攻撃を加える危険性のある国に対する「潜在的抑止力」になっているからである。これに日本のロケット技術を結びつければ、日本は核ミサイルを持つことも可能である。

日本は原発の使用済み核燃料の再処理によって44トンのプルトニウムを保有しているが、IAEA(国際原子力機関)によって管理され、兵器に転用できるような高濃度のプルトニウムは持てないことになっている。高濃度プルトニウムを返還させることは、日本から「潜在的核抑止力」を取り上げることと同じであることをアメリカは知らねばならない。

もし返還を迫るなら、アメリカの核の傘を堅固なものにしてもらう必要があるだろうが、「世界の警察官」をやめたアメリカにはそれも期待できない。

今回の要求の背景には、おそらく中国の働きかけもあるのだろう。中国外文局が管理・運営するチャイナネットは、この返還問題を「日本の核の密室を暴く」と題して報じている。

チャイナネットの記事は、「(アメリカの返還要求は)日本という潜在的な核大国の密室に隠されている真実への注目を喚起できる」「(日本の核政策に対して)オバマ政権が懸念を強め、国際社会全体が脅威を感じ始めている」「日本の核の密室のドアを開くのは、同盟国のみの責任ではなく、地域と国際社会が共に直面すべき厳しい課題だ」などと、あたかも日本が周辺諸国に脅威を与えているかのような論調に貫かれている。

中国は多数の核ミサイルを保有し、一部は日本に照準を合わせている。そのような国に日本の脅威を警告される筋合いはない。アメリカはむしろ、中国の核ミサイルを取り締まるべきだろう。

だが、日本の側も問題だ。返還要求のきっかけとなったのは、福島原発事故以来「脱原発」の流れが加速してプルトニウム消費の見通しが立っていないことがある。「使わないのになぜ持っているのか」というアメリカ側の懸念に対し、十分な説明ができていないのだ。

やはり核技術を維持し続けること自体が、日本の抑止力になるということを知るべきだ。(賀)

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