2013年12月号記事

The Mission of University

大学の使命

なぜ、新しい学問の創造が必要なのか


contents

  • 大川隆法総裁法話レポート・大学の理念を語る
  • 「人間幸福学」の理念とは
  • 時代が求める新しい「経営成功学」
  • 科学と宗教を融合する「未来産業学」
  • 野田一夫氏インタビュー「未来を創る力」を育てよ
  • 大学の使命とは

part2

「人間幸福学」の理念とは

──学問の始まりに帰る

学問は何のためにあるのか。ここでは、「学問の祖」ソクラテスが学問をどのようにとらえていたのかを確認します。そうすることによって「人間の幸福を目指すもの」という本来の学問の姿が浮かび上がってきます。そして、これから先の学問はどうあるべきかを考えます。

学問とは何か──学問の祖ソクラテスに見る

「ソクラテスこそが最高の智者である」──。古代ギリシャで、ある日、デルフォイの神殿でこのような神託が下りました。

ところが、当のソクラテスにとっては何のことやら。「自分より賢い人は大勢いるはず。でも、神託が間違っているとも思えない。それなら、自分自身で確かめてみよう」。こうして、ソクラテスは知識人たちとの問答を開始したのでした。

学問の主流は「未知なる真理の探究」

これらの問答からソクラテスの哲学は始まったのです。哲学だけではなく、今でいうところの倫理学、数学、自然科学、政治学、法学など、あらゆるジャンルの考察が深まっていきました。

ソクラテスは問答していく中で、こう考えます。「私も他の人たちも知識は大したことはない。しかし、彼らはそれを自覚していない。私は無知であることを自覚している分だけ、彼らより知恵があるのだ」。これが有名な「無知の知」です。こうして、デルフォイの神託が意味していたことが明らかになりました。

ここで大切なことは、哲学をはじめとする学問は、実は、神託を検証する作業から出発しているということです。つまり、学問はそもそも、「神のお告げ、宗教的インスピレーション(霊感)の検証」から始まったのです。神託をもとに、当時の常識にとらわれず、「未知なる真理」を探究することが学問だったのです。

「そんなのはきっかけにすぎない」「たまたまだ」という反論もあるかもしれません。しかし、宗教からインスピレーションをもらっていた大学者は何もソクラテスだけではありません。

例えば、ケプラー、ニュートンといった大科学者たちは、「ヘルメス思想」(注)という宗教思想の影響を強く受けていました。コペルニクスの地動説、セルベトゥスの血液循環説なども、ヘルメス思想のアイデアからできたと言われています。中間子理論を唱えた湯川秀樹博士が老荘思想からヒントを得たことも有名です。

学問の進歩は、宗教の教義や神託を実証しようという努力の賜物だったのです。

(注)古代、地中海周辺で生まれた神秘思想。

学問の目的は人間を幸福にすること

ソクラテスの学問を考える上で、大切なことがもう一つあります。それは、「学問は人間を幸福にするものである」ということです。

学問もそうですが、ソクラテスの考える「真の知恵」とは、人々に「善く生きること」「徳のある生き方」を教え、人間の魂を向上させるものでした。つまり、知恵のある人は徳のある人なのです(知徳合一)。

そしてソクラテスによれば、この「徳のある生き方」こそが「幸福」に他なりません。人間の魂は、有徳な生き方にこそ幸福を感じるものなのです。

したがって、政治学や倫理学など、人間のあるべき行動を考える学問は「真」「善」「美」などの徳を探究することになりますが、その奥にある究極の目的は、人間を幸福にすることなのです。それ以外の学問も、当然ながら、この目的に奉仕するものでなければなりません。

大川総裁は法話 「『人間幸福学』とは何か」の中で、「人間幸福学の下に、現代のあらゆる学問が再検討されるべきだと考えますし、その立場は決して恥じるべきものではなく、ソクラテス的立場そのものであると考えるべきで、『学問の始まり』に戻ったということでもある」 と語っています。

この考え方は、プラトンやアリストテレスにも引き継がれます。古代ギリシャは「神々の存在」を前提とし、「個人と社会の幸福」を目的として、数多くの学問を誕生させたのです。