2013年のノーベル平和賞に、「化学兵器禁止機関(OPCW)」が選ばれた。

化学兵器禁止機関(OPCW)は、化学兵器禁止条約の発効を受け、加盟国の廃棄状況の検証を行うため1997年に発足した国際機関。内戦状態にあるシリアで化学兵器が使用されたことで注目が高まった。

内戦が続く危険な地域で化学兵器の処理に全力を傾けているOPCWの職員たちには敬意を払いたいが、今の時点でOPCWにノーベル賞平和賞を授与することは問題が多い。

現在、OPCWは、米露の合意で始まったシリアの化学兵器全廃計画に向けて活動を始めたばかりで、関連施設の査察さえ終わっていない。

ノーベル平和賞創設者のノーベルは、平和賞は「国家間の友愛関係の促進、常備軍の廃止・縮小、平和のための会議・促進に最も貢献した人物」に授与してほしいと遺言したそうだが、ここ数年、ノーベル賞は、平和へ貢献した実績を讃える賞というよりは、今後の貢献への期待を込めて送られる賞という性格が強くなっている。

今回もその性格がより強まった。OPCWの活動にスポットを当て、全世界の注目を集めることで、アサド政権に化学兵器廃棄を迫りたいという狙いが受賞の背景にはある。

ただし、アサド政権に化学兵器廃棄を迫ることが平和につながるかといえば大いに疑問だ。

アサド大統領が素直に化学兵器廃棄に応じるとは思えない。事実、化学兵器廃棄を承認した後も、化学兵器を各地に移動させ、隠蔽しているとの報道がされている。

さらに問題なのは、今回の受賞で、化学兵器のみに注目が集まることで「化学兵器さえ廃棄すればシリア問題は解決する」との誤解を与え、問題の本質を見失う恐れがあることだ。

2年半に及ぶ内戦で、アサド政権はすでに10万人以上の自国民を通常兵器で殺戮している。化学兵器廃棄に協力するとしながらも、いまだ反体制派への攻撃はやめていない。

化学兵器廃棄はシリアの平和を意味しないし、米露合意に協力するフリをしている限り、アサド政権は時間稼ぎができてしまう。

実際、反体制派からは、「化学兵器の廃棄作業が続く限り、アサド政権は存続する。受賞はアサドへのプレゼントだ」との声もあがっているという(12日付読売新聞)。

そもそも、今回のシリア問題をこじらせたオバマ大統領も、期待値によってノーベル平和賞を授与された一人である。

「核兵器なき世界」を掲げたオバマ大統領は、大統領就任後8カ月半の段階で、何の実績もないうちに受賞した。実際、その後のオバマ大統領の仕事ぶりをみると、ノーベル平和賞を返納しなくてはならないのではないかと感じられる。

今回のシリア問題についても、「アメリカは世界の警察官ではない」と言って軍事介入から逃げ、ロシア主導のシリア化学兵器廃棄の提案に乗り、いたずらにアサド政権を“延命"させることになった。

この際、ロシアのプーチン大統領から「オバマ大統領はノーベル平和賞受賞者なのだから、シリアへの軍事攻撃を決定しないように」と牽制されている。

「ノーベル平和賞」が足かせになって、独裁者を野放しにする決定に至るのであれば、一体何のための賞なのだろうか。「平和」の名が、悪意を持った者に利用されないよう願いたい。(佳)

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