この半年間の経済運営で、安倍晋三首相が何かを学んだとすれば、それは「景気の気は気分の気」ということではないだろうか。
7日に日経新聞のインタビューに答えた安倍首相は、設備投資活性化を狙った投資減税を行う考えを明らかにした上で、「弾を込めて発射をして、それが少しずれていれば修正してもう1回打つ」と述べ、追加の成長戦略を打ち出すことをにおわせた。
安倍首相は5日の講演で成長戦略の第3弾を明らかにしたが、期待されていた法人実効税率の引き下げなどは盛り込まれなかった。市場では失望感が広がり、講演中から売りが加速して、その日のうちに日経平均は500円以上も下げてしまった。それに慌てての「追加」であろう。
しかし、今から追加の成長戦略を検討するくらいなら、初めから大胆なプランを示すべきだったのではないか。デフレ不況を長引かせた"戦犯"である、日銀の白川方明前総裁は、金融緩和をチョロチョロと小出しにする「戦力の逐次投入」を行ったため、景気回復への市場の期待を高めることができず、デフレ脱却に失敗した。反対に、「マネタリー・ベースを2年で2倍にする」と打ち出すなど、大胆なビジョンを示して市場に期待を持たせることが、ここまでのアベノミクス成功の要因であったことを思い出さねばなるまい。
株高をもたらしたものが「期待」という「気分」だったとするなら、最近の株安も「失望」という「気分」に負うところが大きい。自民党総裁として安倍氏が積極的な金融緩和の考えを明らかにして以来、昨年11月半ばから半年ほどで、日経平均は8割も上昇した。その要因は、アベノミクスによって日本が長引くデフレ不況から脱却できるのではないかという「期待感」に他ならない。
今後の経済運営を成功させるために、安倍政権は、景気が良くなっていくという期待感を持たせるような政策を、次々と打っていく必要がある。そこで壁になるのが、自民党のこれまでのしがらみや、選挙前の安全運転路線だろう。96条改正を公約に明記しない憲法改正や、「村山談話」踏襲を決めた歴史問題などで、安倍自民党はすでに、これまでに打ち上げた政策を引き揚げ始めている。
ここまでの景気回復にあぐらをかいて、経済でも同様に、思い切った政策を打ち出すことを躊躇するなら、選挙前までにこれまでの株高が吹き飛ぶことだってあり得る。実際に日経平均は、黒田東彦新総裁が「異次元緩和」を打ち出した4月初めの水準近くまで戻ってきてしまっている。
法人税の減税や、大胆な規制緩和、農業分野への株式会社の参入など、景気回復後に待ち受けている、日本経済の生産性を高めるための課題は大きい。選挙前に口をつぐむのは日本の政治家の習い性だが、言うべきことをハッキリ言わなければ、市場の期待感は得られない。
「アベノミクスもいよいよ本丸」「民間活力の爆発」――。これまでの成長戦略の発表で、安倍首相は威勢のいい言葉を並べてきたが、それがスローガン倒れかどうか、市場も有権者も注視している。
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