安倍晋三首相は29日のテレビ出演で、北朝鮮による日本人拉致問題の解決に改めて意欲を示した。安倍首相は北朝鮮の金正恩・第一書記が拉致工作に直接関わっていなかったと思われることから「(拉致に関して)新しい時代のリーダーとして、ここはやはり正しいことをしようという決断ができる政権だろう」と、金氏への期待をにおわせる発言をしている。
安倍首相はこのごろ、拉致問題解決への熱意を繰り返し強調している。14日には飯島勲・内閣官房参与を訪朝させ、拉致された安否不明者の再調査や生存者の全員帰国を求めるメッセージを伝えた。昨年末に2度目の首相に就任した直後には、拉致被害者の家族に対し「この問題は、必ず安倍内閣で解決するという決意で臨みたい」と意気込みを語った。
もともと拉致問題は、安倍首相が最も熱意を注いできた問題の一つだ。2002年、北朝鮮に拉致の事実を認めさせた第一回日朝首脳会談に、安倍氏は内閣官房副長官として小泉純一郎首相(当時)に同行している。北朝鮮側ははじめ、拉致を認めない予定だったという。しかし、会談の休憩中、北朝鮮に会話を盗聴されていることを認識しながら、安倍氏は「北朝鮮が国家として拉致を認めず、謝罪もしないのであれば、平壌宣言に署名する必要もない」と小泉氏に詰め寄って、北朝鮮側に圧力をかけた。その直後に、金正日・総書記(当時)が一転して拉致を認めたというエピソードもある。
もちろん、北朝鮮による日本人の拉致は、国民の生命や安全を脅す、許されない主権侵害だ。現在、北朝鮮による日本人の拉致被害者は政府が認定しているだけで17人いるが、被害者やそのご家族のつらさは察して余りある。
しかし、安倍政権が拉致問題を重視しているため、北朝鮮の非核化への動きで米韓と足並みが乱れつつあるというのも事実だ。両国も同じく北朝鮮による拉致被害を受けているが、北朝鮮の非核化を優先する方針で一致している。それは地域全体を核の恐怖におきかねない核問題の方が、取り組むべき優先順位が高いと判断しているからだろう。米韓両国は7日に首脳会談を持ち、防衛協力強化や、北朝鮮との対話の前に核開発計画の変更を求めることを強調している。
安倍首相が拉致問題を優先する姿勢を示していることは、拉致問題解決のためには日本は北朝鮮の核を問題にしないというメッセージを出しているとも受け取られかねない。拉致は確かに重要な問題だが、日本は米韓と協力し、北朝鮮の非核化に取り組むことも考えなければならない。(居)
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