債券格付け会社のフィッチはこのほど、中国の人民元建て長期国債の格付けを、「AA-」から「A+」に引き下げたと発表した。

問題となっているのは、地方政府がインフラ投資などのために抱えている借金だ。中国は2008年の金融危機の後に4兆元もの大規模な財政出動を行い、経済成長率の失速を和らげた。しかし、地方債の発行や銀行からの買い入れを禁じられている地方政府は、「投資プラットフォーム会社」という会社を出資して作り、その会社が銀行から借金をして公共投資を行う"迂回戦術"を取った。

その結果、このプラットフォーム会社に負債が溜まる格好になっている。中国政府の公式発表では、中国政府の借金の額はGDPの約15%だが、この地方政府の「隠れ借金」とも呼べるプラットフォーム会社の負債を加えれば、GDP比50%~60%になるとも言われる。

中国経済の成長率は今年1月~3月期に7.7%と、前期よりも減速し、景気回復の遅れが懸念されている。その成長率の数字も、インフラ投資などが下支えしたもので、消費主導の経済に移行するという課題の克服への道筋は見えていない。

中国共産党政府は、経済を成長させることで国民の信頼を得てきただけに、景気の減速はその正統性に関わる問題だ。中国で勤務経験のある弁護士で、中国関連の著作のあるゴードン・チャン氏は、米フォーブス誌(電子版)への寄稿で、「経済の不調が正統性の危機につながり、正統性の危機ゆえに政府はナショナリズムに訴えて周辺国との軋轢を深め、その軋轢がさらに経済苦を悪化させるループだ」と論じている。

一方で中国政府はすでに、政府高官の汚職問題などによって、国民の信頼を失っていると言える。このほど、優秀な報道活動に贈られるピュリツァー賞に決まった、米ニューヨーク・タイムズ紙の温家宝前首相の蓄財報道などは、ほんの氷山の一角だ。

「人民論壇」という、「人民日報」系列の雑誌は15日、共産党に関するインターネットでの意識調査の結果を発表した。「中国の特色ある社会主義の堅持と発展は、大多数の人民の根本的な利益となる」など4つの質問を出したが、「賛同しない」との回答がすべての質問で約8割に達し、一党独裁体制についても批判的な回答が多く寄せられた。この調査結果は、ウェブサイトへの掲載直後に削除されている。

メディアの検閲など言論統制で知られる中国政府は、経済面でも背伸びの財政出動などで見せかけの経済成長を演出してきた。しかし、「国民を豊かにする政府」というその"演技"は、国民に見透かされていると言える。中国国民のためにも、虚飾で創り上げられた「張子の虎帝国」は、早期に崩壊せねばならない。

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