経済編 消費税を上げても大丈夫?(そもそも解説)
「アベノミクス」で株式市場は好調だが、来年には消費税引き上げが待っている。増税で景気は冷え込まないのだろうか。
(A) ついに消費税の増税について、民主、自民、公明の3党が6月15日に合意に至りました。2014年4月に、現行の5%を8%に、15年10月に10%に引き上げます。国会の会期を大幅に延長して関連法案の成立を目指します。
普天間基地の移設をめぐって日米関係にヒビを入れ、中国の恫喝外交に屈して国防の危機を招き、震災対応のミスで被害を大きくしてきた民主党政権に、「増税による不況の深刻化」という最後のメニューが加えられた形です。しかもご丁寧に、自民、公明が手伝って、国難の総仕上げにあたってしまいました。
このまま消費増税の関連法案が成立し、施行された場合、野田内閣は、間違いなく後世に悪名を残すことになるでしょう。世界恐慌の只中で緊縮財政を強行して昭和大恐慌を引きこした戦前の浜口内閣と並び称せられる可能性が高いと言えます。
世界経済を牽引してきた米経済がふるわず、EUはユーロ危機で深刻な状況にあり、中国のバブルも崩壊しつつあります。そして日本は15年以上にわたるデフレ不況に苦しんでいる状況での大型増税です。正気の沙汰ではありません。増税の判断が正しかったのかどうか、次の選挙で国民の審判が下ることになります。
(A) 本誌では繰り返し指摘してきましたが、消費税増税の危険性について、もう一度整理してみましょう。
1997年に当時の橋本政権が3%だった消費税を5%に引き上げました。所得税の見直しなどを含めて約9兆円の負担増を国民に強いる政策でした。それでも当時は、景気が回復基調にあり、日経平均株価も2万円を超えていました。一応「増税は好景気に」というセオリーに基づいての判断だったのです。
しかし、この判断は凄まじい結果をもたらしました。
その年、景気は腰折れし、山一證券や北海道拓殖銀行などの大手金融機関の破綻が相次ぎました。消費が冷え込んで、デフレが定着し、自殺者は3万人の大台に乗りました。肝心の税収も、97年の53・9兆円を頂点に下がり続けました。名目GDP(国内総生産)も97年の523兆円をピークに、下がり続けることになりました。
あらゆる経済指標が97年から下落傾向に転じてしまったのです。
ひるがえって、今回の増税案では、13兆円を超える負担増だと言われます。好景気の時に9兆円の負担増で恐慌寸前に追い込まれたのに、不景気の時に13兆円の負担増を行うのです。しかも、これは消費税だけの話で、今後の展開によっては所得税や相続税の増税も付け加えられる可能性が高いと言われています。
今、消費税の増税を強行すれば、さらなる消費不況が起こり、デフレが深刻化し、自殺者が増え、税収が大幅に減ることになるでしょう。そうなれば、結局、社会保障の手当てができなくなり、年金破綻が一層早く現実化することになってしまいます。
(A) 今回の増税については、新聞を中心とするメディアの報道の責任も大きいでしょう。東京新聞を除く大手紙のほとんどが、3党合意を支持しています。新聞は軽減税率の対象になる可能性が高いので、所詮、他人事なのかもしれません。
それにしても、ある経済紙が、「1人あたりの国の長期債務について、11年に2歳なった子供は723万円の借金を背負って生まれてきた計算になる」という学者の説を紹介していたのには驚きました。
政府の長期債務の大半は国債です。国債とは、政府が国民から借りたお金です。国民からみれば、政府に貸したお金です。貸したお金は通常、資産に計上されます。にもかかわらず、経済学者や専門紙ともあろう者が、それを「借金」と言っているのです。
銀行に預けている(貸している)お金を、預金者の借金だと言う人がいるでしょうか。これは簿記3級レベルの知識です。いや、簿記の知識がなくても、貸した金と借りた金の違いくらいは分かります。その区別がつかない人たちによる増税大合唱のもたらす悲劇はいかばかりでしょうか。本格的な景気回復までの道のりは遠いと言えます。
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