防衛省が進めていた、沖縄県・与那国島(与那国町)の陸上自衛隊配備に向けた用地取得が、来年度にずれ込む見通しになっている。政府は地代として最大でも1億円程度を想定していたが、町側が10億円を求め、折り合いがつかなかった。だが中国の脅威が迫る中で、一自治体のエゴが国全体を振り回すことは許されない。

21日付各紙によると、防衛省の左藤章政務官が20日、与那国町で外間守吉(ほかま・しゅきち)町長と協議。2012年度予算に用地取得費として10億円を計上しているが、この中には測量調査や敷地造成費などが含まれており、用地の賃料としては年500万円で計画していること。また、買い上げの場合でも約1億円であることを伝えた。

これに対し、外間町長は、「沖縄戦の時代背景や誘致に反対する人たちもいるなどの意味合いからも、迷惑料や思いやりの部分で用地取得は別途に10億円を要求している。行政としてではなく、政治案件として取り扱ってほしい」(21日付八重山毎日新聞ネットニュース)と回答。左藤政務官は金額の理由付けが乏しいとして難色を示したという。

防衛省は、尖閣諸島や東シナ海で我が物顔で振る舞う中国を牽制するため、日本の最西端で尖閣から南西120kmに位置する与那国島に、100人規模の陸上自衛隊員を常駐させ、レーダーなどを使った沿岸監視部隊としての役割を担わせる計画。同島の予定地26ヘクタールのうち、町が所有する21ヘクタールを取得し、今月中にも敷地造成に着手する予定だった。

筆者は2010年10月、取材で与那国島を訪れた。尖閣沖中国漁船衝突事件の直後だ。同島では、多くの島民が中国の漁船や軍艦、潜水艦を目撃するなど、迫りくる中国の脅威を肌で感じていた。だがその一方で、国境の島でありながらこの島を守るのは警察官2人と拳銃2丁という何とも心細い状態であった。

また、与那国島では40年以上前から自衛隊の誘致活動が行われており、町長選や町議選のたびに、誘致の是非をめぐって町民同士が対立を繰り返してきた歴史がある。こうした経緯を考えれば、外間町長の苦しい胸の内も分からないわけではないが、中国の脅威が迫る中で、今回のような政府の足元を見る対応は国を危うくする。国そのものが危うくなれば、当然、自治体は意味をなさない。

また、「迷惑料」と言うが、いざ中国や北朝鮮のミサイルが飛んできたときには、“迷惑な人たち"である自衛隊こそが島民の生命や財産を守ってくれる。民主党政権では、政府首脳が自衛隊を「暴力装置」と呼んで批判を浴びたが、自治体の首長でもそうした表現は許されない。これは「商談」ではないのだ。

自衛隊の誘致について、外間町長は当時、弊誌の取材に対し、「法律的には、国が決断するだけ」と期待感を込めて語っていた。自衛隊が与那国島に常駐することは、中国の大きな目標でもある台湾侵略をけん制制する意味も含まれている。

外間町長には、与那国島という枠を超え、日本、東アジアの平和を守るために今どのような判断をしなければいけないのかという大局的な視点を持っていただきたい。(格)

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