主要20カ国・地域(G20)による財務相・中央銀行総裁会議が15日からモスクワで開かれるのを前に、日米欧7カ国(G7)が「通貨戦争」に懸念を示す声明の発表を準備している。米ブルームバーグ通信などが報じた。検討されている声明では、為替相場の誘導を目標とした金融・財政政策の決定を行わないという内容が盛り込まれる可能性がある。

安倍晋三内閣は積極的な金融緩和を掲げているが、この動きが円相場の意図的な切り下げによって輸出を伸ばす意図ではないかという懸念がG7の間にある。実際に、対ドル円相場は昨年12月に比べて13%も下落している。

しかし、金融緩和は長引くデフレの克服が第一の目的であり、「通貨戦争」という指摘はオーバーだ。米連邦準備理事会(FRB)などが、2008年の金融危機後に極めて積極的な金融緩和で景気下支えを図ってきたことを考えれば、日本の動きは、これまで怠ってきたデフレ対策にようやく本腰を上げただけにすぎない。デフレをこのまま放置して、日本経済を停滞させる方が、世界経済にとても損失は大きいだろう。

スイス国立銀行のフィリップ・ヒルデブランド元総裁は、12日付の英フィナンシャル・タイムズ紙への寄稿で、「様々な国で、現在もこれからも戦われる金融政策の戦いは、国内政策の範疇を超えない。それらは弱い需要と、高い失業率、デフレ圧力に対するものだ。中央銀行がこうした国内の戦いをやらないなら、世界経済にとってもっと危険なことになる」と論じている。

問題は日本が為替誘導を狙っていると誤解されるような発言が、政府・与党から時折聞かれることだ。石破茂・自民党幹事長は衆院選後に「望ましい為替水準は1ドル85円から90円」と述べており、先月にも過度の円安を懸念する発言をしている。また甘利明・経済再生担当相も先月、過度の円安が国民生活に影響しかねないと述べた。こうした発言が、「通貨戦争」についての欧米の懸念を不必要に煽っている可能性がある。

もしこうした発言の背景に、「為替相場は操作すべきものだ」という思い込みがあるなら改めるべきだろう。こうした考え方は、為替相場を市場介入で操作しようとして失敗し、10兆円以上の大金をドブに捨てた、民主党政権の考え方と変わらない。為替相場はあくまでも、自国通貨と相手国通貨との需要と供給のバランスで市場が決めるものであり、経済の最大の問題は為替相場ではなくデフレなのだと政府・与党は肝に銘じるべきだ。

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