大規模な財政出動や金融緩和といった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」に対して、「意図的に円安に誘導している」という批判の声が海外から出ている。

ドイツの中央銀行である連邦銀行のワイトマン総裁は21日、安倍政権の圧力が日銀の独立性を損なう恐れがあると危機感を示し、「為替相場の政治問題化」につながりかねないと述べた。メルケル独首相も24日、「日本を見ていて、不安がまったくないわけじゃない」と発言し、アベノミクスに対する不信感をにじませた。イギリスなども、各国が競って為替を切り下げることで輸出を増やそうとする「通貨戦争」に発展する恐れを示唆している。

日本が通貨安になれば、その分自国の輸出競争力が落ちかねないという不安が、批判の背景に読み取れる。しかし結果的に通貨安を招くとしても、各国が必要に応じて自国経済を刺激するための政策を取るのは当たり前のことであり、批判されるいわれはない。IMF(国際通貨基金)のブランシャール首席エコノミストも23日の会見で、「通貨戦争の話は騒ぎすぎだ。各国は経済が健全な状態になるように、正しい政策を取るべきだ」と述べている。

日本経済の低迷を招いてきたデフレの深刻さを考えれば、財政・金融の両面から国内需要を喚起しようとするアベノミクスは常道と言える。確かに金融緩和は円安を招く動きだが、そもそもの問題は、金融危機後に大幅な緩和に踏み切る各国を尻目に、日銀がデフレに手をこまねいて過度の円高をつくってきたことだ。安倍政権の政策は不当に安い円相場をつくるためのものではなく、デフレを退治して、本来あるべき金融政策を取り戻そうという動きである。

アベノミクスの効果が波及し始めれば、世界経済にとってもプラスが大きい。国内需要が喚起されれば、日本が海外から物を買ってあげることができ、各国の経済が潤うからだ。甘利明・経済再生担当相は英フィナンシャル・タイムズ紙(24日付・アジア版)のインタビューで「日本は単に他国の消費で満足するわけにはいかない。世界のリーダーになれるように、自分たちの経済の基礎力を高めないといけない」と話している。

バブルが潰えた後の日本は、少しでも景気回復の芽が見えると金融引き締めなどでそれを踏みつぶす誤った政策を繰り返し、長期不況をつくった。同じ轍を踏まないよう、実際に好景気が実現するまで粘り強く政策の効果を待つのが肝要だ。

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