オバマ米大統領は7日、共和党のチャック・ヘーゲル元上院議員を国防長官に指名することを発表した。上院での承認を経て、正式に就任する。
先日のケリー上院議員の国務長官指名とも相まって、2期目のオバマ政権の外交チームは、「対話重視」の姿勢が鮮明になっている。ヘーゲル氏はブッシュ政権が始めたイラク戦争に批判的な立場を取り、2008年の大統領選では共和党員ながらオバマ氏を支持した。
ヘーゲル氏は「我々はみな、世界のどの場所で起きるどんな出来事にも関わりがある」が持論。軍事力を「最後の手段」ととらえて対話を優先する姿勢は、オバマ氏に相通じるものがある。10年以上前からイランに対して無条件で対話を行うことを訴えており、「宥和政策の枢軸」(ウィークリー・スタンダード誌)と揶揄されるなど、保守派の間では根強い反発がある。
アジアでは中国の軍拡と北朝鮮の核開発、中東ではイランの核問題を抱え、アメリカの強力なリーダーシップが試される中での「対話重視」路線の人事は、オバマ外交の先行きを案じさせる。
さらに問題なのは、防衛・外交人事を政争の道具にする米政界の混迷ぶりだ。共和党側はヘーゲル氏の姿勢を批判しているが、その理由は、イランとの直接対話も厭わない同氏が「反イスラエル的」に見えるという理由からだ。
しかし中東の紛争のリスクは看過できないとしても、アメリカの国際的なリーダーシップを揺るがしかねない最大の問題は、中国の覇権主義と軍拡である。ところが、アジアの外交問題へのヘーゲル氏の姿勢を問う声はあまり聞かれない。背景には「ヘーゲル氏への賛否で、ユダヤ票がどう動くか」という政治的な計算が見え隠れする
外交人事では先にも、国務長官候補とされていたライス国連大使を、リビアでの米領事館襲撃への対応をめぐって共和党が猛烈に批判し、指名を断念させたことがあった。領事館襲撃事件は大統領選の争点の一つとなったが、共和党がオバマ政権の失点として攻撃を続けたため、ここでも中国の軍拡問題に対する外交戦略の議論は疎かになってしまった。
「話せばわかる」路線のオバマ政権の外交チームの顔ぶれは、中国の拡張主義の問題に取り組む上で不安がある。しかし、それを戦略的見地から批判せず、政争にいそしむ共和党の側にも問題はあるだろう。アメリカとの協力は大切だが、安倍政権は日米同盟に頼りきりでは日本の防衛は心もとないと認識する必要がある。
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