2012年6月号記事
的外れで唐突──。朝日新聞や週刊「サンデー毎日」に突然掲載された宗教法人への課税論議には、こんな印象が拭えない。その背景に見え隠れするのは、国民が不況に苦しむ中で消費税増税をごり押ししようとする財務省だ。本来、宗教に課税すること自体、憲法違反であり、宗教弾圧だ。なぜ宗教が非課税なのか。改めて論点を整理する。
(本誌編集部)
4月に入り、朝日新聞、サンデー毎日という左翼系マスコミの媒体に、宗教法人への課税を誘導する記事が相次いで掲載された(右)。
特に、サンデー毎日4月22日号の記事は、「幸福の科学大学建設への疑心暗鬼」と題し、幸福の科学を狙い撃ちした内容だ。この記事を書いたのは、「宗教と金」をテーマに多くの文章を書くフリージャーナリスト・山田直樹氏。やり玉にあげたのは、2015年4月開校を目指す、千葉県長生村の「幸福の科学大学・建設予定地」である。
記事では、長生村の村議の一部が、固定資産税の課税を主張していることを取り上げているが、この土地は宗教法人・幸福の科学が所有し、境内地として認定されているため、法律上、課税されない(4月13日時点)。
幸福の科学グループ広報局によると、この土地の所有権は4月末、学校法人・幸福の科学学園に移転される予定だ。同大学の建設計画は、宗教法人が土地を取得した2008年時点で村や近隣住民にも示されており、今回、大学の建物に関する基本計画が決まり、今後、環境アセスなどの土地調査をスタートさせるために、所有権を移転する。この結果、開校直前に大学の建物が完成するまでは非課税規定が適用されないため、来年以降、学校法人が税金を納めることになるという。
結局、 この土地の所有や移転については、法律的にも適正に行われており、本来、問題とされるべき点は何もない。 そのためか、記事は単に「宗教に非課税部分があることは許せない」という、感情論のレベルである。
朝日新聞の「宗教法人課税論」「財務省擁護論」の怪
4月3日付朝日新聞の「宗教法人なぜ非課税」という記事も同じだ。ほぼ一面を使った大特集では、作家・エッセイストの中村うさぎ氏らの、「この不況のなか、増税されたら困る人はたくさんいます。だったら、まず宗教法人から税金をしっかり取ったらいい」などの発言を掲載している。
また、これに先立つ同月1日付の朝日新聞では、編集委員のコラムで、わざわざ「増税を考えない方がおかしい」「増税論議が動き出すたびに噴き出す財務省陰謀説は、その正体を冷静に疑ってかかった方がいい」と、増税を進める野田政権・財務省を擁護している。
実は、これらの 記事が出る直前の3月末、朝日新聞が、財務省の外局である国税庁から税務調査を受け、2億5100万円の申告漏れを指摘されていた ことが報じられた。つまり、その直後から、朝日新聞は「財務省は悪くない」「増税は必要」「宗教に課税せよ」という趣旨の記事を次々と掲載したことになる。
最終目標は「幸福の科学」への弾圧か
財務省・国税庁が、税務調査という権力を使って、マスコミに圧力をかけるのは常套手段 である。
実際に、消費増税反対の論陣を張る新聞社に、国税庁が大規模な調査を行っている。
消費増税反対の論陣を張る中日新聞グループに対し、東京や名古屋の国税局が、昨年夏から半年ほどの長期間、大規模な税務調査を行った。「『今回の徹底調査の裏には、国税=財務省側の「牽制球」「嫌がらせ」の意図が透けて見える』」(「週刊現代」3月17日号)。
幸福の科学グループは、財務省傀儡の民主党政権が進める増税路線に早い段階から「ノー」を突きつけている。この事実と一連の「宗教法人課税論」の報道を重ね合わせると、 民主党政権や財務省が、税務調査でマスコミをコントロールして「宗教法人への課税もやむなし」の世論をつくり、煙たい存在の幸福の科学を弾圧しようとしている、と考えられる。
実際に、大川隆法・幸福の科学グループ創始者兼総裁が3月、財務省の実質トップである勝栄二郎・財務事務次官の守護霊を招いた際に、勝守護霊は、幸福の科学を狙って、「今、マスコミを通じて宗教法人課税を言わせているところだ」と語っている(注)。
(注)大川隆法著『 財務省のスピリチュアル診断 』(幸福の科学出版)
宗教への課税は憲法違反
しかし、 法人税であれ固定資産税であれ、宗教への課税を認めるならば宗教弾圧となり、「信教の自由」を謳った憲法および宗教法人法の違反である。
信教の自由とは、公権力による宗教の統制を禁じるもの だ。もし課税を認めれば、宗教団体は課税権力による管理統制下に置かれ、財務省や国税庁、時の政権によるコントロールに道を開いてしまう。企業などに課税しても弾圧ではないが、宗教に同じことをすれば弾圧と見なされるのだ。それはなぜか。
課税などによる世俗権力の介入は、教団や施設を守る宗教的結界を破って聖域を穢し、瞑想や降霊などの宗教活動を著しく阻害してしまう。これはまさに宗教弾圧そのものだ。 このことは、刑法や建築基準法など各種の法律でも配慮されている。
また、信教の自由がこれほど尊重される理由は、歴史的に、他の様々な自由や人権が信教の自由から発生してきたからだ。
信教の自由を求めて戦ったピューリタン(清教徒)の思想や、その精神を受け継いだアメリカの独立宣言では、人間に基本的人権を授けるのは神と考えられており、神を信じることがあらゆる人権の出発点とされている。したがって、信教の自由を蔑ろにすれば、他の人権も危機に瀕することになる。
宗教の統制が危険であることは、旧ソ連、中国、北朝鮮、ポル・ポト時代のカンボジアなどの共産主義国家の現実を見ればよく分かるだろう。宗教の否定が人権の否定につながるという因果関係は明らかである。
こうした理解があるからこそ、宗教非課税は世界の常識なのだ。宗教課税論者はいち早く国際標準に立ち返るべきだろう。
法の下の自由に反する財務省
一連の宗教法人課税の議論で問題なのは、「過去に遡って財産に課税すべき」「税法を改正して宗教にも課税できるようにすべき」といった発想が、ごく自然に語られていることだ。しかし、これほど危険な考え方はない。 新しい立法や行政判断で遡及効(法律などが施行以前に遡って効果を持つこと)が認められるようなことになれば、議会制民主主義に反し、悪王の専制政治に戻ることにもなりかねない からだ。
通常、人々は現行の法律に従って課税されると予測して日々の暮らしや仕事を営んでいる。それを過去に遡って、新しいルールに基づいて課税するとなれば、「何でもアリ」になってしまう。国家権力にとって気に入らない者を、後付けの立法で、恣意的に課税したり処罰したりできるのだ。
これは、国家権力が専制政治を行わないように規定されたイギリスのマグナ・カルタ(大憲章)以来の議会制民主主義の精神に反する。日本の憲法84条も、遡及立法を禁止する趣旨を含んでいる。自由な国家では、「法の支配」が守られなければならない。ハイエクは、その代表的な著作である『隷属への道』でこう指摘している。
「『法の支配』とは、政府が行うすべての活動は、明確に決定され前もって公表されているルールに強制される、ということを意味する」
例えば、時々報道される新聞社や大企業に対する追徴課税などは、実質的に過去に遡って恣意的になされる部分が大きいが、これなども ハイエク的な法の下の自由に反しており、ナチス並みの所業 だ。
朝日新聞の宗教法人課税論も、かなり恣意的だ。
同記事で積極的に「宗教に課税せよ」と主張する中村うさぎ氏と前民主党参院議員の峰崎直樹氏は、宗教の専門家でも、法律の専門家でもない。この2人を宗教課税の代表論者とした点、実は宗教的・法的根拠が乏しく、恣意的であることを露呈している。
そのなりふり構わぬ宗教批判は、財務省・国税庁による税務調査によって、脅しに屈したようにも見える。もし宗教課税の議論を盛り上げて、税務調査の手を緩めてもらおうとしているなら、マスコミはすでに財務省という"悪王"の手で落城してしまったことになる。
ハイエクは言う。
「本来、民主主義の理想はすべての恣意的権力を防止することを意図したものである」
我々は自由と民主主義の精神を取り戻す必要がある。
宗教課税論を唱える人々への質問とその回答
本誌編集部は、今回、サンデー毎日、山田直樹氏、中村うさぎ氏に取材を行った。
以下はその質問と回答。
質問
(1) 税法を悪用して、宗教法人に課税することは宗教弾圧。これは、憲法や宗教法人法などで、国民の信教の自由や神仏の領域である宗教活動に、俗界の権力が介入しないよう戒めていることからも分かる。記事の趣旨は、憲法や法律を無視した感情論と受け止められる。見解を聞かせてほしい。
(2) 記事では、非課税の宗教法人所有の土地について、時期を遡って課税せよと主張しているように受け止められる。しかし、新しい立法で遡及効を認めることは、租税法の「納税義務者の不利益に変更する遡及立法は、原則として許されないと解すべき」という代表的解釈から逸脱している。どう理解するか。
(3) 財務省・国税庁は、マスコミに「税務調査」という形で圧力をかけ、財務省批判を封じたり、財務省批判を行う勢力を攻撃させるという。今回の記事が掲載されるプロセスでは、国家権力からの圧力を感じたか。
(4) 時の政権は、官房機密費を使って、ジャーナリストを動かすと聞く。記事の掲載を巡って、政府など公的機関からのアプローチなどはあったか。
回答
サンデー毎日編集部
(1) 「感情論」とのご指摘は当たらないと考えます。
(2) ご指摘の主張はしておらず、お答えしようがありません。
(3) 全くございません。
(4) (質問せず)
山田直樹氏
(1) 無回答
(2) 無回答
(3) 無回答
(4) 無回答
中村うさぎ氏
(1) 課税を弾圧とは思わない。現在の優遇を一般人と同等にすべきと思う。「聖と俗」というのは、神ありきの概念。私は神を信じていないので、その考え方を共有できません。
(2) (質問せず)
(3) 朝日新聞が税務調査に入られたことは知りませんでした。どこの媒体であろうと、聞かれたことに対して自分の意見を述べるというスタンスです。
(4) ありません。あったら、どこかで記事にします。