オバマ米大統領の米軍のアジア・シフトの表明を受けて、それがどういう意味を持つのか、本当に可能なのか、についての論説が各月刊誌に掲載されている。
要チェックは、「正論」3月号の国際政治アナリスト伊藤貫氏と、「ボイス」3月号の京大教授・中西輝政氏だ。
■伊藤貫「アメリカの中国封じ込め戦略に対する8つの疑問」(要約)
- アメリカによる中国封じ込め政策は、2020年代の中ごろになると、失敗であったことが明らかになるだろう。以下はその理由。
- アメリカは経済規模が世界の約2割に対し、軍事費が世界の5~6割を占めており、無理がきている。
- アメリカの医療コストは2016年ごろ、GDPの20%を超えると予測される(日本、西欧は7~9%)。老人人口が急増し、医療費負担が巨大化するため、「中東とアジアの軍事覇権を握り続ける」世界支配システムを維持するのは不可能。
- 中国封じ込めのための軍事予算は、中国などが米国債を購入することで成り立っており、維持できない。
- 2011年末に撤退したイラクの治安は悪化し、内戦の危機にもある。2014年撤退のアフガンもそうなる可能性が高い。イラン危機、シリア問題もあり、アメリカが中東から手を引くことはできない。
- 中国が米空母を台湾などに近づけない「接近拒否戦略」を採るのに対し、アメリカは「エア・シー・バトル」(空海統合戦闘)を打ち出している。中心は中国の通信網への攻撃と、無人爆撃機による基地攻撃だが、中国の側もこれに対抗でき得る。最後は軍事予算をどれだけ投入できるかの問題になる。
結局、アメリカはお金がないから中国に対抗できる軍事戦略を十分構築できない、ということだ。そこで伊藤氏は「必要最小限の核抑止力を構築せよ」と訴えている。
■中西輝政「『キューバ危機』に陥った極東情勢」(要約)
- 日本のメディアは 報じないが 、中国では極秘に総延長5000キロに及ぶ地下トンネルが掘られ、戦略核弾頭ミサイル基地や核収容庫があり、高速鉄道が大陸間弾道弾を積んで移動していると伝えられる。
- 各専門家は、事実だとすれば、中国は戦略核弾頭を1000~2000発持っているはずだという。
- 米露が 核弾 頭数を減らそうとしており、中国が「世界一の核戦力国家」になる。
- オバマ大統領が昨年、米海兵隊をダーウィン豪軍基地に駐留させると発表したが、中国の戦域ミサイルの射程から言えば当然の決定。沖縄、グアムも危うい。
中国が世界一の核大国になろうとしており、アメリカ軍が沖縄からも逃げて行っているというわけだ。
アメリカによる中国包囲網が"ザル"ならば、日本としての戦略が必要だ。上智大名誉教授の渡部昇一氏が、月刊「致知」3月号でミャンマーとの関係強化を主張している。
■渡部昇一「歴史の教訓」(要約)
- 日本の外交も軍事的に膨張する中国への対応が一つの主眼でなければならない。その視点に立てば、どこと親密度を深めるべきか見えてくる。
- 例えば中国と南沙諸島の領有権などで強い緊張関係にあるベトナム。そして、ミャンマーである。軍事政権から民政への移管が本物かどうかと躊躇しているべきではない。政治犯の大量釈放など民政移管の姿勢ははっきり表れている。国交を親密にしていく絶好のチャンス。地下資源開発を支援すべき。中国のインド洋進出をふさぐことになる。
日本の大手紙には、米軍のアジア・シフトは中国包囲網を鮮明にしたものだと歓迎ムードだが、実態は危ういと考えなければならない。「自分の国は自分で守る」という基本に立ち返るしかない。(織)
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2012年2月9日本欄 米軍再編見直しは本当に中国包囲網?