2012年3月号記事

昨年末、イランが ホルムズ海峡 封鎖を警告するという瀬戸際外交に出た。

そこで「世界の警察官」である米軍がどう対応するかが注目されている。

米政府は1月5日に発表した新国防戦略の中で、軍事戦略を大きく変更した。これまでは、中東とアジアと二つの大規模紛争に同時に対処できるだけの軍事力を維持するという方針だった。今後はこれを改め、米軍の規模を縮小すると明らかにしたのだ。

その背景にあるのは、社会保障費が増大して財政が悪化したこと。これ以上、財政赤字を増やさないためにも、アメリカは、今後10年で1兆ドル規模の防衛費を削減する予定だ。今回の新戦略もこの方針に沿っている。

防衛費を縮小すれば、中東とアジアと二面展開は事実上無理となり、明確な優先順位をつける必要が出てくる。

そこで、オバマ政権は、すでに昨秋の段階で 中国の覇権主義へ対抗すべくアジア・太平洋重視の姿勢を打ち出している。

瀬戸際外交に訴えるイラン

イランが昨年12月27日にホルムズ海峡封鎖の警告を発したのは、まさにアメリカがアジア重視の判断を打ち出した"隙"をついた形だ。

欧米諸国は、イランが核兵器を開発している疑惑があることから、イランの石油輸出に制裁を加える準備を整えていた。例えばアメリカは、イラン中央銀行と石油貿易で取引する金融機関を制裁対象とする法案を12月31日に成立させている。適用された金融機関はアメリカの金融機関と取引できなくなる。また、EUも7月からイラン石油の全面禁輸に踏み切る方針だ。

こうした措置を受けて、すでにイランの通貨リアルは信用を失い、2桁のインフレが進行し、経済が疲弊している。この難局を打開するための、一種の瀬戸際外交として、海峡封鎖の警告を発したわけだ。

イランは本当にホルムズ海峡封鎖に踏み切るのか。イラン海軍の最高司令官は「封鎖はコップの水を飲むより簡単」と強気だが、自国経済への影響を考えれば、封鎖は自殺行為である。

イランはGDPの20%、政府歳入と輸出の7割以上が石油関連で、石油貿易は生命線と言える。 加えて、封鎖を行えばアメリカとの戦争になる危険がある。場合によっては、周辺アラブ諸国や取引相手の中国すら敵に回しかねないのだ。

イランの封鎖警告は、現実味のある脅しというより、危機を演出して石油価格を吊り上げる狙いが強いと見られる。とはいえ、もし封鎖が本当に行われれば、 11月の選挙で再選を目指すオバマ米大統領にとって、弱腰というイメージを払拭し、石油市場の混乱による経済悪化を避けるために、軍事行動による封鎖解除に打って出る可能性がある。

中長期では軍事介入も

長期的な問題はやはり、核開発とイスラエルとの関係だ。

米大統領選の共和党公認指名争いでは、強硬路線の表明が相次いでいる。最有力のミット・ロムニー氏はイラン核武装を阻止するために軍事行動も辞さないとしており、ロン・ポール氏を除く他の有力候補も先制攻撃に言及するなど同様の立場に立っている。

こうした発言はオバマ氏の外交姿勢を「ソフト路線」と批判する狙いがあるほか、ユダヤ票を狙った選挙用レトリックという趣が強い。イランの核施設すべてを空爆で除去できるか定かでない上、攻撃には石油市場の混乱やサイバー攻撃のリスクもある。

しかし、 イランは1年から2年以内に核兵器を製造できるペースで核開発を進めているとも言われる。 実際にイランが核兵器を持つタイミングでは、核拡散を懸念するアメリカやイスラエルによる軍事介入も可能性としてないわけではない。オバマ政権は当面、制裁と外交交渉のアメとムチでイランの核開発断念を目指すものと見られる。

一方で、北朝鮮の金正日総書記の死亡で東アジア情勢も不透明感を増している。予算の制約を抱える中で、外交の優先順位付けという課題が、今後アメリカにますます重くのしかかる。