2012年3月号記事
インタビュー
日本は集団的自衛権を行使できる体制に
拓殖大学客員教授
潮匡人
(うしお・まさと)
1960年生まれ。早稲田大学卒業。同大学院博士前期課程修了。元三等空佐。聖学院大学専任講師、防衛庁広報誌編集長、帝京大学准教授などを歴任して、現職。『常識としての軍事学』(中公新書ラクレ)、『日本人として読んでおきたい保守の名著』(PHP新書)など著書多数。
金正日死去の発表後、テレビや新聞は、「北朝鮮の体制に大きな変化はない」と報じましたが、それは大きな間違いです。 これまでは金正日という一人の人物による独裁でした。それが、金正恩を筆頭にした集団指導体制になったこと自体、大きな変化と見るべきです。
金正日は権力継承に20年以上費やし、その間に政敵を暗殺するなどして権力を手中に収めました。しかし金正恩は、表舞台に出てきてから2年も経っておらず、実績も経験もないに等しい。たとえ最高司令官として軍の指揮権を握っても、統御できるか否かは別。統御とは、部下を「この指揮官のためなら、自分は死ねる」などと心服させることだからです。
新体制は金正恩、後見人の張成沢・国防委副委員長、李英鎬・軍総参謀長のトロイカ体制とも言われますが、張は、妻である金正日の妹・金敬姫の気分次第でその地位を失いかねない不安定なポジションです。あるいは、今後、党に足場のある張と軍トップの李の間で主導権争いが起きる可能性も十分考えられます。
そう遠くない将来、体制のほころびが、外部に見える形で出てくると思います。その一つの山場が、「強盛大国の大門を開く」と豪語してきた、金日成生誕100周年にあたる4月15日でしょう。その10日後には軍事パレードも予定されています。
北朝鮮半島有事を機に日米同盟崩壊の恐れ
これまで米韓両軍は、北朝鮮の急変事態を想定した「共同作戦5029」をつくって軍事訓練を行ってきました。もし、この計画が発動されれば、38度線を越えて北上し、東西の海岸から上陸するでしょう。
自暴自棄になって爆発させたり、第三国やテロリストの手に渡るのを阻止するために、真っ先に核兵器ならびに関連施設を制圧する。米韓軍は国連軍なので、何らかの形で北朝鮮が休戦状態を破れば、安保理決議がなくても戦えます。
では、そのときに日本の自衛隊は何ができるか……ほとんど何もできません。
まず、日本政府が朝鮮半島の紛争を「周辺事態」と認定できるか。これは大きなハードルですが、仮に認定したとしても、周辺事態法に書かれている範囲のことしかできない。「後方地域支援」をすることになりますが、たとえば、海上自衛隊の補給艦がインド洋でやったような給油を、日本海で米空母に対して行う。でも、そこに北朝鮮の弾道ミサイルが飛んできたらどうするか。法令には、「危なくなったら逃げて帰れ」と書かれている。そうなれば、日米同盟は一気に崩壊します。これが朝鮮半島有事におけるもっとも恐ろしいシナリオです。
それを避けるには、 日本政府が「憲法9条の解釈を変更して、集団的自衛権を行使できるようにする」と宣言するだけでいいのです。 武器輸出三原則を修正できて、集団的自衛権を修正できない理由などありません。
日本のイージス艦が米空母を護衛すれば、世界最新鋭のミサイル防衛網が味方につくことになります。また、200機もあるF15で北朝鮮の戦闘機を蹴散らし、海自のP3Cでブイを投下すれば、北朝鮮の潜水艦は身動きがとれなくなります。自衛隊を「世界第二の軍隊」と言う人もいますが、こうした活動が、日本政府の宣言だけで可能になるのです。そうすれば、米韓軍だけを見ていた北朝鮮、もっと言えば中国も慌てるでしょう。
平和よりも自由のほうが価値が上
誤解を恐れずに言えば、私は平和という言葉が嫌いです。平和は常に強者によってつくられてきたため、負けた側の正義を追求すると平和に反することになる。つまり、平和を最高の善としたときに、常に強者にしか正義がないことになります。
しかし、 北朝鮮の民衆が蜂起して金正恩を倒すことは、平和に反するかもしれませんが、正義に反するとは思いません。その意味で、私は平和よりも自由のほうが価値が上だと思っています。
でも、自由には責任と犠牲が伴う。世論はそれに耐えられない。だから平和や平等のほうが勝つ。そうやって、人類は同じ過ちを繰り返してきました。 1930年代を振り返れば分かるように、当時のナチスドイツが、今の北朝鮮であり、中国です。
犠牲を恐れて問題を先送りすると、人類は必ずより高い代償を払うことになります。
・「北朝鮮 ─終わりの始まり─ 霊的真実の衝撃」…………(本誌 p.28)
・国際社会は北朝鮮国民の苦しみを放置してはならない……(本誌 p.30)
・半島有事シミュレーション <最悪パターン>……………(本誌 p.32)
・半島有事シミュレーション <最良パターン>……………(本誌 p.34)
・インタビュー 拓殖大学客員教授 潮匡人
2020年代 自由と繁栄の東アジアを創れ ………………(本誌 p.38)
■ 2020年代自由と繁栄の東アジアを創れ─編集長コラム ……………(本誌 p.38)
■ ニュースそもそも解説 - 北朝鮮問題を読み解くための基礎知識 ……………(本誌 p.40)