2012年2月号記事

サッチャー革命、小泉改革未だ成らず

野田佳彦首相が、社会保障を維持するためだとして、消費税増税に異常な執念を見せている。それだけでなく、高所得者に狙いを定め、所得税の最高税率(40%)の引き上げ、年収約700万円以上のサラリーマンの年金保険料引き上げなど、"増税"ラッシュをかけている。

首相は「中間層の厚みを増す日本をつくりたい」と説明しているが、狙い通りにいくかどうか。

資産家への道を用意したサッチャー氏


貧乏な人でも資産家になれる道を用意したサッチャー元首相。そのために国営企業民営化や脱福祉国家、教育改革などを進めた。


小泉純一郎元首相は郵政民営化を断行したが、それ以外は手を出さなかった。

幸福の科学の大川隆法総裁は12月10日、ついき秀学・幸福実現党党首との対談で、野田政権の増税路線によって国家社会主義が近づいているとしたうえで、「やはり必要なのはサッチャー革命」と指摘した( 保守の中の左翼に警戒せよ-公開対談抜粋レポート「国家社会主義への警鐘」 参照)。

サッチャー革命は、サッチャー首相在任中の1980年代、長期低迷を続けていたイギリスを、「小さな政府」をうたう自由主義的な政策で復活させたもの。

08年からの世界金融危機の後、「サッチャー主義は捨て去られた」とも言われているが、一時的・表面的な見方だろう。

「金持ちを貧乏にしても、貧乏人は金持ちにならない」

サッチャー氏のこの言葉に象徴されるように、サッチャー主義は「金持ち優遇、貧乏人切り捨て」のように誤解されている。

しかし 実際のサッチャー革命は、今は貧困の中にある人でも資産家になる道を用意したものだった。 サッチャー氏自身、「すべての人が『資本家』として、何らかの資産を持てる社会が必要だ」と力説していた。

その手段が、国営企業の民営化であり、脱・福祉国家と家庭の重視であり、国の誇りを取り戻す教育改革だった。

資産家が福祉を支える社会

イギリス経済の6~7割を占めていた国営企業の民営化では、社員や一般国民が株主になって、給料以外の収入源を得ることを奨励。まさに数多くの「資本家」を生み出した。

年金改革では基礎部分を残し、報酬比例の二階部分を民間の年金にできるだけ移行させた。老後の収入のすべてを政府に管理されるのは、高齢者が「公務員」の立場に置かれるのと同じで、これを避けるためだ。

持ち家政策も推し進め、公営住宅を格安で国民に売却した。持ち家が「資本」の出発点であるという考え方からだった。

サッチャー氏は、目指す社会のイメージについて「福祉を必要とする人を救済するための巨大なボランティア社会の創造」と語っていた。つまり、 労働者の多くが資産家となって、騎士道精神で福祉を支える社会だ。

サッチャー革命以上の徹底した改革を

サッチャー氏は、「利益連動型賃金」も構想していた。企業で利益が上がれば、従業員の給料の2割相当が連動して上がるようにして、その半分については課税をしないという仕組みだ。結局は実現しなかったが、これも労働者を「資本家」や「経営者」の立場に近づける狙いがあった。

その意味では、サッチャー革命は未完成だったということだろう。

自由主義的な構造改革を進めた小泉純一郎元首相は、サッチャー氏とよく比べられるが、やったのは郵政民営化ぐらいで、脱福祉国家にも、教育改革にも手を着けなかった。

小泉改革はまったく中途半端で、サッチャー革命以上に未完成だった ということになる。

メディアなどでは「小泉改革は格差を広げ、失敗した」とされてしまっているが、何のことはない、もっと徹底的にやるべきだったのだ。

野田首相のような“高所得者いじめ"では、中間層は細るばかり。 今の日本には、サッチャー革命を何倍にもパワーアップして復活させ、中間層を丸ごと「資本家」にするぐらいの腰の入った理念と政策が必要だ。

(綾織次郎)