2012年1月号記事

人口70億人時代の強国モデル

人口70億人時代の課題新しい強国の役割
(1)食糧・水・エネルギー不足食糧生産技術、新エネルギー技術への投資
(2)2人に1人が都市に住む都市化都市部をさらに住みやすく効率的にする投資
(3)平均寿命68歳を超えた高齢化ネズミ講的な社会保障をやめ、脱・福祉国家化する

10月末、世界の人口が70億人を突破した。2030年に83億人、50年に93億人を超えると予想されている。70億人時代の特徴は主に3つ指摘されている。

(1)食糧・水・エネルギー不足で獲得競争が激しくなる。例えば食糧は50年までに生産量を70%増やす必要がある。

(2)2人に1人が都市に住んでおり、35年後には3人に2人になる都市化時代である。

(3)出生数も増えているが、実は世界の平均寿命は68歳を超え、世界的な高齢化社会となる。

これらの課題をクリアする国が、先進国の中で次のリーダー国、最強国になり得る。

福祉国家は「ネズミ講」

今年、ユーロ危機や米国の財政危機で明らかになったのは、戦後本格化した福祉国家が終わりを告げたということだ(!!!リンク!!!)。

米大統領選でペリー・テキサス州知事は公的年金など社会保障について、「若者に対するネズミ講だ」と力説した。後に発言を修正したが、今の先進国の福祉国家の本質を言い表している。

ネズミ講は投資詐欺の一種で、加入者がネズミ算式に次々と増えることによって、既存の加入者が後続の加入者よりも儲かる仕組みを言う。加入者が増え続けなければ、資金繰りがショートするので、あるとき突然に破綻し、大事件になる。

日本の公的年金も、「賦課方式」や「世代間の助け合い」と謳ってはいるが、実質的にネズミ講と言える。給付と負担の差は今の10歳以下がマイナス3000万円台。70代はプラス5000万円近くなので、8000万円以上「儲かる」。少子高齢化で加入者は減り続け、2030年代には積立金不足で資金ショートするという試算がある。

ふつうのネズミ講ならその時点で破綻して終わりだが、 「国営ネズミ講」の場合、国民を強制加入させているうえ、最後は徴税権があるので、重税を課して資金ショートを先延ばしできる。 それをやろうとしているのが財務省や厚労省だ。

ギリシャやイタリアなどの場合は、社会保障を他国からの借金で賄っていたが、貸してくれなくなったために財政破綻しようとしている。

米国の地方自治体も、社会保障のための借金で財政破綻が近づいているところが多く、2012年にかけて最大100都市がデフォルト(債務不履行)するという予測もある。

欧米や日本の危機は、福祉国家に代わる国家モデルを創り出さなければならないことを意味している。

「4分の1天引き法」的備えを

先進国の公的年金などの社会保障が、他の人のお金を右から左に移す「詐欺」的なものであるならば、「老後や病気などには自分で備える」という、ごく当たり前の考え方に立ち戻らなければならない。

シンガポールは、欧米や日本のような社会保障は「若者が反乱を起こすか、国を出て行く」ものだとして、「福祉国家にはならない」ことを実行している。それは、 明治・大正の財産家である本多静六博士が実践した「4分の1天引き法」を国民に求める ものだ。

政府がすべての勤労者に対し個人口座を用意し、本人の給料の20%を積み立てさせるとともに、雇っている企業にも15%前後を拠出させる。所得の4分の1どころか3分の1にもなる。

政府が年2・5%の利子を保証し、本人が55歳になると自由に引き出せるが、それ以前でも医療費のほか、教育・住宅資金にも活用できる。

人口500万人弱の小国家でやっていることを、日本にそのままは導入できない。ただ、民間企業が「4分の1天引き法」的な金融商品をそれぞれに開発して売り出すことを、政府が税制面などで後押しすれば、多様なサービスが実現できるだろう。

年金・医療制度の大イノベーション

日本は新しい政治・経済モデルを創り出せるか。人口70億人時代の課題からすれば、やるべきことは明らかだ。

(1)食糧を安く大量に作れる農業技術、新エネルギー技術の開発に投資すること。

(2)世界最大の人口3500万人を擁する東京圏など、都市部の交通インフラ強化や高層化を進め、さらに住みやすく効率的な都市生活を実現すること。

(3)先進国として初めて、「脱・福祉国家」を成し遂げること。

今やるべきは増税ではない。未来技術と都市インフラへの集中投資と、年金・医療制度の大イノベーションだ。 (綾織次郎)