8月末、沖縄県石垣市と与那国町、竹富町の「教科用図書八重山採択地区協議会(以下、同協議会)」が、来春から使用する中学公民の教科書に保守系のものを採択したことは本欄でも紹介した。だが、今月8日に沖縄県教委が主導した会議で、その決定がひっくり返され、一転して不採択となる異例の事態が起こった。
適正な手続きを踏んだ協議会の決定が別の協議体によって覆されたのは、1963年に現行の教科書制度が始まって以来、初めてという。
8月23日の同協議会は保守系の教科書を採択。その後、石垣市と与那国町はそれぞれ議決通りに採択。ところが、竹富町が不採択としたため、一本化を図るために、県教委が3市町の教育委員全員による協議を提案した。
9日付の地元紙・八重山日報などによると、8日に開かれた3市町の教育委員全員が出席した臨時総会には、県教委の義務教育課長ら4人がオブザーバーとして参加したが、たびたび発言を求めて、事実上、会議を主導。「答申と異なる教科書であっても、一本化していればいい」「ここ(会議)で決めたことには拘束力がある」「協議の方法は、この場で多数決で決めてほしい」と圧力をかけた。
総会では、強引なやり方に憤る石垣市の玉津博克教育長が途中一時間ほど退席したり、採決時に与那国町の崎原用能教育長が退席して棄権するなど抗議の姿勢を示した。だが結局、県教委の目論見どおり、総会の多数決で「不採択」となり、育鵬社から東京書籍へと変更された。
県教委の圧力によって、法的権限のない会議で教科書採択が覆されたわけだが、今度は、石垣市と与那国町が反対の立場に立つことになり、この問題は一件落着とはいかないだろう。
県教委を応援する立場で報道を続けてきた地元の大手マスコミはこの逆転不採択に喝采を送るが、県教委を含め、自分たちが好まない決定を力ずくでひっくり返す姿勢は、全体主義の中国政府の姿と重なって見える。沖縄の教育界、マスコミ界は、自分たちが民主主義を破壊するような恥ずかしいことを行っているという自覚を持つべきだ。(格)