HSU 未来産業学部プロフェッサー

志波 光晴

プロフィール

(しわ・みつはる)1957年、福岡県生まれ。神奈川大学経済学部経済学科卒業後、プラントメンテナンス会社、非破壊検査装置会社で働く中で理科系の研究者を決意。放送大学教養学部で理科系を学び、東京大学先端科学技術研究センター研究生を経て、同大学工学部より工学博士を取得。同大学先端科学技術研究センター助手、(財)発電設備技術検査協会鶴見試験研究センター研究員、(独)物質・材料研究機構上席研究員を経て、2016年よりHSU未来産業学部プロフェッサー。専門は、材料工学、非破壊検査、信頼性評価。著書に「環境・エネルギー材料ハンドブック」(オーム社)など。

アラビアは、錬金術発祥の地とされるエジプトからヨーロッパに至るまでの歴史の中継点として、大きな役割を果たしており、「現代化学の源流」と言われています。そしてアラビアの錬金術の中核理論には、「硫黄水銀理論」と「エリキサ」の2つがあるとされています。

前回の連載では、硫黄水銀理論は、ペルシアのシルクロード交易を通じて、ギリシャ・エジプトの思想、インドの大乗仏教、中国の道教という3つの地域の文化と宗教が交わった技術であることを紹介しました。

硫黄と水銀のシンボルはそれぞれオフェアリスとヘルメスを意味しました(*1)。8世紀のジャビールが唱えた硫黄水銀理論は、宇宙論と神秘神学を背景としたエジプトの錬金術を受け継ぎ、硫黄と水銀にフォーカスしたものだったと言えます(*2)。

アラビアの錬金術のうち、もう一つの中核理論である「エリキサ」は、硫黄水銀理論を具体化した万能薬と呼べるものです。この万能薬は、卑金属とされている銅や亜鉛などを、貴金属とされている銀や金に変えたり、病気を治す働きをしたりします。エリキサは「賢者の石」とも呼ばれ、後の中世ヨーロッパの錬金術の最大の目的となりました。

今回は、「エリキサ」とその源流を探ってみます。

【参考文献】
(*1)2020年6月7日、6月15日付本欄「アラビア世界の錬金術2-(1)、2-(2)」
(*2)ダニエル・ジャカール著 『アラビア科学の歴史』(第1版第1刷) 創元社、(2006)、p72-73。