アメリカ・イラク両政府が合意した、イラクからの米軍の完全撤退期限が年末に迫る中で、3日付の米紙ワシントン・ポストは社説で、現状での撤退は危険であると警告している。

イラクではアルカイダなどによるものと見られるテロ事件が後を絶たず、先月29日には北部で州評議会ビルが狙われ、50人以上の死者を出したばかりだ。

社説は、イラクは充分な治安能力をまだ持っておらず、米軍が撤退すればクルド人とアラブ人との抗争が激化する恐れがあるほか、イランなど他国の勢力が影響力を強める可能性があると分析。米軍の駐留延長かNATOの助けを借りるよう検討がいると論じている。

しかし、マリキ政権側から提案があるとすれば、国内世論の問題で遅くにならざるを得ないだろうから、オバマ政権は土壇場でも対応できるよう準備しておくべきだと、社説は提案している。

「アラブの春」が中東を席巻するのを受けて、武力を使ってまで民主主義を推進したブッシュJr.政権のネオコン(新保守主義)政策を再評価する声もあるが、イラクの現実は甘くはないのである。

フセインを取り除いたイラクには権力の空白が生じるとともに、シーア派のイランが、同派主体のイラク新政権へ関与し勢力圏を拡大する可能性も懸念されている。外交に大義としての理想を掲げるのは大切だが、理想と現実とのバランスを間違うと、無責任な結果を招来しかねないという例であろう。

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