《本記事のポイント》

  • 5Gを巡る米中覇権争いにおいて、中国に軍配が上がりつつある
  • 背景には、中国製品の「安さ」と「アメリカへの不信感」
  • 民主主義国家による官民両サイドの力で、「監視社会」の輸出を止めるべき

アメリカが、中国に負けるかもしれない──。

「次世代通信規格」5Gを巡る米中覇権争いにおいて、そんな声が上がりつつある。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙はこのほど、猛スピードで整備される中国のITインフラに焦点を当て、アメリカの「出遅れ感」を指摘した(7日付電子版)。

同紙によると、中国では「住民が窓ガラスのない木造の掘っ建て小屋に暮らし」、「道路にはニワトリと猫がうろついている」山あいの村であっても、2年前に5Gが短期間で開通したという。中国全土をくまなく5Gネットワークで覆い尽くさんという、中国政府の執念が伝わってくる。

米調査大手バーンスタインリサーチの推計では、年内にも中国国内の5G向け小型基地局が15万カ所に達し、世界一になるという。一方アメリカは1万カ所。圧倒的な開発スピードの差だ。

中国5Gインフラが世界の半分以上を覆い尽くす!?

特に中国の猛追が著しいのが、覇権争いの勝敗を左右するアジア諸国においてだ。

カンボジアは華為技術(ファーウェイ)の技術を使って、年内にも5Gサービスを開始する予定だ。その他フィリピンやインドネシアなどの国々でも、ファーウェイや中興通訊(ZTE)と契約を結ぶ動きが出ている。

これら中国通信大手の製品は、欧米企業と比べ2割以上も安い上に、性能は勝るとも劣らない。資金が潤沢ではないアジア諸国にとって、「他に選択肢がない」というのが現状だ。

安価な値段に加え、「アメリカへの不信感」が中国企業の導入を後押ししているという。日経新聞のコメンテーターを務める秋田浩之氏が、12日付同紙で指摘した。

IT技術を利用して他国の情報を抜き取ってきたアメリカが、ファーウェイやZTEの情報漏えいを批判できるのかという論だ。秋田氏は、イスラム教徒の人口が多い国では、中国よりアメリカに情報を取られる方が怖いと考える向きすらあるとする。

ロシアも5Gでファーウェイを採用すると発表し、アフリカでも中国製の5Gインフラの受注が増えている。このままでは、世界の半分以上が中国に覆い尽くされてしまう。

「監視社会」を広げないために

巻き返しを図るには、官民両サイドの力が不可欠だ。

欧州や日本の企業が新興国向けの低価格商品を開発し、「安全性」を武器に売り込みをかける。中国企業に対して技術の優位を保つため、民主国家同士での共同研究開発も検討すべきだろう。

それと同時に、日本政府としても中国に情報を握られることの危険性を世界に発信すべきだ。中国13億人の国民が、政府に一挙手一投足を監視されている現状を丁寧に伝える必要がある。人間からあらゆる自由を奪う「監視社会」を、世界に広げてはならない。

(片岡眞有子)

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