仏・英・米を中心とする多国籍軍は3月21日までに、国連安保理決議に基づくリビアへの軍事介入を本格化させ、カダフィ大佐が関係する行政施設などを空爆した。建前は「リビア国民の安全の確保」だが、各国にはそれぞれの思惑があり、国際社会の足並みはそろっていない。

今回の軍事介入で主導的役割を果たすのが仏と英だが、それには理由がある。これまで両国はカダフィ政権と手を組み、リビアの石油やガスの利権を手に入れていた。しかし、仏は同月10日の時点でカダフィ政権を見限って、反体制派組織「国民評議会」を正統政権と承認。英もリビア民衆が蜂起した直後に反体制派と接触を試みた。

もし、カダフィ氏が権力を握ったままだと、仏英は「リビア利権」を失う可能性が高い。また両国は、米国の政治力が低下する中、不安定化した国際秩序を立て直すことで大国として復権し、国際社会で主導権を握ることを目指すという(3月22日付読売新聞)。

一方、「世界の警察官」の米国は、「米国が主導しているのではない」(クリントン国務長官)、「数日中にNATOに指揮権を移譲することになる」(ドニロン国家安全保障担当補佐官)と強調。米国は現在、イラクとアフガニスタンに合わせて15万人もの米兵を投入しており、軍事費も縮小傾向にある中、リビアでの戦線拡大は国内でも慎重論が圧倒的だ。

また、国連決議の採択では中国、ロシア、インド、ブラジル、ドイツの5カ国が棄権。欧米への支持を表明したはずのアラブ連盟も「我々が求めるのは民間人の保護で、爆撃ではない」(ムーサ事務局長)と厳しい姿勢を見せる。(同日付毎日新聞)。

日本の松本剛明外相は多国籍軍の軍事介入を「支持する」と表明した。紛争への介入や関与は「外交」そのものであり、他国に対して自国の外交スタンスを明らかにすることでもある。政府は国際社会の「本音と建前」を注意深く見定め、冷厳な国際政治の荒波を乗り切らなければいけない。(格)

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