関門橋(画像はShutterstock.com)。

《本記事のポイント》

  • そもそも論は、道路が要るか否か
  • 関門トンネルは、通行止め時間が全国ワースト1位
  • 「忖度」追及ではなく、PPPを対案として出す

政府が整備を進める山口県下関市と福岡県北九州市を結ぶ「下関北九州道路」(下北道路)。自民党の塚田一郎・元国土交通副大臣が、山口を地盤とする安倍晋三首相に「忖度し国直轄の調査に引き上げた」と発言したことで、下北道路は全国の注目の的となった。

「忖度道路」として問題視する野党はこのほど、現地を訪れ、実態調査に乗り出した。ただ、国民民主党の国会議員が、過去に「国としての取り組みを加速すべき」との質問主意書を提出したこともあり、野党の対応には矛盾があるとの指摘が出ている。

そもそも論は、道路が要るか否か

確かに、忖度発言は問題だが、野党が批判を繰り返す姿勢に、辟易する人もいるだろう。ここで考えるべきは、そもそも、その道路が必要であるか否かではないか。

その参考となるべき北九州市の資料(平成28年8月)によれば、下北道路を整備すれば、50年間で約2070億円の効果があると推計されている。具体的には、幹線道路の交通渋滞が減り、所要時間は従来の約50分から約25分に短縮される。一方、建設にかかる事業費は約1千数百億円~2千億円であり、道路を整備するメリットの方が大きい。さらに下北道路は、天災が起きた際の代替ルートを確保する意味もある。

関門トンネルは、通行止め時間が全国ワースト1位

逆にもし整備しなければ、どういう問題があるのか。

下北道路は、関門トンネルと関門橋の代替ルートとしてつくられる。開通から61年が経つ関門トンネルは老朽化によって、過去5年間(2011~15年)で、計1138回の通行止めが発生。その頻度は2日に1回以上のペースであり、14年の通行止め時間(1440時間)は全国ワースト1位となった。

また、関門トンネルと並行する関門橋も、開通から45年が経ち、老朽化が著しく、本州と九州を結ぶ生命線の維持が難しくなっている。

当然、通行止めになれば、流通に支障を来たし、生鮮食品を輸送する場合は、その商品を廃棄せざるを得なくなる。交通や物流が止まることで生じる、経済的損失は計り知れない。

「忖度」追及ではなく、PPPを対案として出す

そうした中、野党が対案として出すべきは、国債で道路を整備するのではなく、PPP(官民連携)の一つであるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)で整備するという計画だ。すでに関連当局が検討を始めているが、それを後押しすればいいだろう。

PFIとは、行政が公共施設をすべて整備し、管理するのではなく、民間資金を利用したり、公共施設を整備・管理したりするのを、民間に委ねる手法のことである。これにより、工期の短縮や民間ノウハウの導入、効率的な管理、多様な料金設定などで、総事業費を削減することが可能となる。そうすれば、行政の負担が軽くなり、市民にとっても、良質なサービスを受けることができる。

しかし、日本のPPPは、行政が計画を設計し、その後の管理を民間に任せるのが一般的だ。そのため、十分なコストダウンを図ることはできない。世界のPPPのように、設計段階から民間の力を取り入れ、さらなるコストの削減と質の向上を図るべきである。

日本の老朽化したインフラを再生する必要性は高まっているが、行政には財政的余裕はない。だが、ない袖は振れないからこそ、知恵を絞ることができる。世界では、財政問題を解決する手法として、民間が公共サービスを提供するのが「常識化」している。日本も、世界の潮流に乗り遅れれば、待ち受けているのはさらなる増税だろう。

(山本慧)

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