《本記事のポイント》

  • 日米が主導する「セキュリティ・ダイヤモンド」
  • はるばる参戦する英仏
  • ASEANだけでASEANは守れない

「中国包囲網」に、日米印豪のみならず英仏も本格"参戦"しつつある。

中国は、南シナ海を目一杯囲む「九段線」の内側を、自国の領海だと主張している。特に、習近平政権成立後、中国軍は同海域での行動を活発化させてきた。周知の通り、一部の島を軍事要塞化し、環礁を人工島へ変貌させている。

それに対して米国のオバマ前政権は、事実上、南シナ海を"中国の海"と認めていた感があった。同政権は「アジア回帰」を謳ったが、それは単なるポーズに過ぎなかった。

日米が主導するセキュリティ・ダイヤモンド

ところがトランプ政権が発足すると、米国は強硬姿勢へ転じた。これ以上、北京のやりたい放題にさせれば、米国の広い意味での国益が侵害されると考えたのだろう。

トランプ政権の基本戦略は、日本から提起された「セキュリティ・ダイヤモンド」という構想を彷彿とさせる。

これは、2012年12月に登場した安倍政権が掲げていたもの。自由・民主主義を旗印として、米国ハワイ・日本・インド・オーストラリアを結び、中国の"膨張"を抑えようとする構想だ。

今後、インド・オーストラリアには、さらなる海軍力向上が期待されている。そうなれば、「セキュリティ・ダイヤモンド」が、より強固なものになるに違いない。

はるばる参戦する英仏

この包囲網に参加するかのように近年、はるばるヨーロッパから、イギリスとフランスがインド・太平洋地域で海軍を展開している。

イギリスは、世界に十数の軍事基地を持つ。特筆すべきは、南シナ海に面するシンガポールとブルネイに英軍基地が存在している点だ。イギリス海軍が、インド・太平洋地域で軍事プレゼンスを高めようとするのは、ある意味自然かもしれない。

一方、意外なのは、フランスがインド・太平洋地域に強い関心を持ち、同地域に海軍を派遣していること。2018年5月、仏ミストラル級強襲揚陸艦「ディクスミュード」とフリゲート艦が、南シナ海の南沙諸島を航行した。

英国とは違って、フランスはインド・太平洋地域に軍事基地を保有していないはず。なぜ、フランスが南シナ海にまで海軍を展開するのだろうか。

仏AFP通信の記事「南シナ海でフランスが軍事プレゼンス強化、中国に対抗」(2018年6月15日付)によれば、同地域で仏海軍が展開する理由は以下のようなものである。

実はフランスは、マクロン政権誕生以前から、すでに中国の「拡張主義」に対抗していた。2014年以降、国際ルールに基づき海の秩序を守る一環として、仏海軍は南シナ海を定期的に航行していたという。

また2016年には、当時のジャン=イヴ・ル・ドリアン国防相(現・外務大臣)が、他のヨーロッパ諸国の海軍に対し、定期的に目に見えるプレゼンスを南シナ海で展開するよう呼び掛けている。

近年、ベトナムが中国の"膨張"に手を焼いている。しかし、同国の海軍力は弱く、到底、中国には対抗できない。そこで、かつての宗主国・フランスがベトナムを側面支援する意図もあるのかもしれない。

また、フランスはドイツと並ぶEUの盟主であり、かつ5大国の一国としての矜持から、南シナ海まで海軍を派遣しているとも言えるだろう。

またフランスは、航行の自由の確保という理由以外にも、ニューカレドニアや仏領ポリネシアを含む太平洋に広がる5つの仏領の自国民の利益を守る必要があるのだろう。

いずれにせよ、対中包囲網への英仏の"参戦"は心強い。

ASEANだけでASEANは守れない

ところで、ASEAN諸国は、必ずしも対中政策で一枚岩ではない。「親中」の国もあれば「反中」の国も存在する。また、ベトナムのみならず、他の「反中」国も、中国と比べて海軍力が見劣りする。

だからこそ、米国を中心として、日印豪、および英仏が協力して、南シナ海で中国軍の動きを封じ込めなければならない。かつて、米国の対ソ「封じ込め」政策の対中バージョンである。

現在、習近平政権は、不景気で呻吟している。その打開策として、南シナ海で軍事行動を起こさないとも限らない。依然、北京の1番のターゲットは台湾だろう。米日印豪英仏は、一致団結して中国の野望を挫く必要がある。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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