《本記事のポイント》

  • サウジアラビアのサルマン皇太子が文化・宗教改革を進めている。
  • 娯楽を広めるために、宗教警察に制限を加えた。
  • イスラム改革が進めば、自由な社会が到来するかもしれない。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン新皇太子が6月末に、副皇太子から、王位継承順位1位の皇太子に昇格した。サルマン皇太子は31歳という若さで国家運営を指揮していることから、世界から注目されている。

特に力を入れるのが、石油依存から脱却し、産業の多角化を目指す経済改革だ。その象徴が、国営石油会社「サウジアラムコ」の上場計画である。

同社は、2兆ドル(約225兆円)の企業価値があるとされ、トヨタの12倍に匹敵する巨大企業。上場すれば、巨額のマネーが動くと見られている。

日本は上場を誘致しており、東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者は、「昨年12月にサウジを訪れ、副皇太子らと面談し、東証は重要な候補で前向きに検討しているとの発言があった。今年4月には東証の宮原幸一郎社長が現地でサウジアラムコの首脳陣と会い、前向きに検討するとの感触を得ている」(6月7日付産経新聞電子版)と期待している。

サルマン国王が3月に来日した際に、日本とサウジは政府間で11、民間で20のプロジェクトに合意した。今後、日本とサウジで経済協力が進むと見られる。

娯楽を与え、宗教警察を制限する

サルマン皇太子は、経済面にとどまらず、「国民が生活を楽しめる社会の実現」のために、文化・宗教の改革も目指している。

厳格なイスラム教国であるサウジでは、長らく娯楽が制限されてきた。映画館はなく、ショッピングモールやテーマパークの数も少ない。サルマン皇太子は、「娯楽がないことがサウジの生活の質を低下させ、投資家や外国人を寄せ付けない原因になっている」と考え、これを変えようとしているのだ。

娯楽の提供に反対してきたのは、イスラム教ワッシューブ派の宗教指導者である。彼らは、「精神を堕落させる」として抵抗してきた。これに対し、サウジ政府は昨年4月に、宗教指導者から強い影響を受ける「宗教警察」の権限を制限することを決めた。

宗教警察は、イスラム教において「悪徳」とされる行為を取り締まっている。イスラム教徒が礼拝や断食をさぼっていないか、女性はスカーフをつけているか、男女の区別は徹底されているかなどをチェックしている。言うことを聞かないイスラム教徒には、鞭打ちで罰することもある。

しかし、新たな規則では、宗教警察が人を拘束したり、追跡したり、身分証を見せるよう求めたりすることができなくなった。政府は、「宗教警察の職務はやさしく親切にするように」とわざわざ文書で周知するほどだ。

これを受けてか、宗教警察は、ソフト路線に変わり、昨年からは公式ツイッターも始めた。そして昨年5月には、娯楽庁も新設され、女性がコンサートに行けるようになった。

宗教と慣習は残しつつ、より幸せな国づくり

サルマン皇太子は、米紙ワシントン・ポストの取材にこう答えている。

「私は若い。サウジ国民の70%も若い。過去30年で経験したような混乱の中で、人生を浪費したくない。この時代は今、終わらせたい。私たちはサウジ国民として、これからの日々を楽しみたい。そして宗教と慣習は維持しつつ、社会と私たち自身を、発展させたい」(4月20日付)

サルマン皇太子は、国民の声に耳を傾ける意志があるように見える。世論調査では、国民の85%が宗教指導者よりも政府を支持しているという。

サウジは、サウド家を国王とする絶対君主制をとっており、国民には集会や言論の自由などはない。だが、サルマン皇太子の改革が進めば、近い将来、国民はそうした自由を享受できるかもしれない。

宗教指導者などの抵抗は、当然出てくるだろう。しかし、時代遅れになった戒律や決まりごとが、国民の自由を縛っているのは事実であり、外部環境の変化に合わせて改革すべきであろう。サウジの取り組みが、イスラム改革の成功事例となるか、注目したい。

(山本泉)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『イスラム過激派に正義はあるのか』 大川隆法著

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