トランプ、「徳ある政治家」への道 ――官僚・マスコミとの“戦い方“ - 編集長コラム

トランプ、「徳ある政治家」への道 ――官僚・マスコミとの“戦い方“ - 編集長コラム

写真:Gamma Rapho/アフロ

 

2017年8月号記事

 

編集長コラム Monthly Column

 

トランプ、「徳ある政治家」への道

―― 官僚・マスコミとの"戦い方"

 

 

「日出づる国」日本のミッション

「日出づる国」日本のミッション

綾織次郎著

幸福の科学出版

 アメリカのトランプ大統領が窮地に陥っている。

「ロシア疑惑」をめぐって、トランプ氏に仕えるはずの官僚たちが内部情報を次々とリークし、トランプ氏を追い詰める。米マスコミは「大統領の資格はない」とばかりにバッシングを続ける。選挙で選ばれたばかりの大統領が官僚たちの反乱やマスコミの糾弾で引きずり降ろされようとしている。

 日本のマスコミもそれに追随しているが、本当にトランプ氏は「駄目な政治家」なのだろうか。

「政治家の指導力」について、官僚やマスコミ、国民との関係性から考えてみたい。

 

 

官僚を巧みに操縦した角栄

 日本の政治家で、官僚と良好な関係を築き、巧みに操縦したのは、田中角栄元首相だろう。役人一人ひとりの名前や家族構成、その能力をインプットし、官僚組織の力をフル活用した。

 角栄氏が首相就任時に発表した『日本列島改造論』で目指したのは、「人口や工場などの地方分散」とされている。

 ただ、角栄氏の言葉を追うと、必ずしもそうではないことが分かる。角栄氏は、新幹線や高速道路で移動時間を短縮し、「日本列島を小さくすること」を実現しようとした。その結果、1日で行き来できる範囲が広がれば、経済活動が活発になり、国民の所得が増え、社会保障も充実することができる。

 それを平議員の時代から、官僚の力を借りつつ、30本以上の議員立法などで実現していった。

「田中角栄は若いときから、役に立たなくなった法律はどんどん捨てて、新しい法律をつくればいいと考え、実践してきた」(早坂茂三著『田中角栄回想録』)という。

 角栄氏以降、そんな発想と行動力のある政治家が出て来ないために、未完成の高速交通網と巨大な社会保障システムが残され、経済停滞と財政赤字に苦しんでいる。

 

 

国民を啓蒙し続けた伊藤博文

 短期間で戦後の政治システムを築き上げた反作用もあって、角栄氏はマスコミに「金脈」問題を叩かれ、首相の座を追われた。

 明治にさかのぼるが、初代首相の伊藤博文は、長い時間をかけて官僚やマスコミ、国民を導き、近代国家の"完成"までもっていった政治家だ。

 伊藤と言えば、明治憲法を立案・起草した人だが、目指していたのは一貫して、国民が政治参加し、「自分たちのことは自分たちで決める」国民国家の建設だった。

 伊藤は1889年の憲法発布の前後、皇族を前にした内々の演説で、議会開設や政党内閣実現には「国民の力を充分に養成する必要がある」と語り、将来的な国民の政治参加を想定した。

 同時に、全国各地へ遊説旅行に出かけ、「政府が何のために税金を取りたて、それを何に使うかを知らなければならない」と"啓蒙活動"を行っている。

 憲法の制定、国会の開設、立憲政友会の創設、政党内閣の組織―。40年以上かけて伊藤が先導してきた一つひとつが、すべて国民国家建設の布石であり、前進だった。

 

 

徳ある政治家の条件

 孔子が説いた「徳ある政治家」の条件は、「智・仁・勇」を兼ね備えていることとされる。

 現代風に言えば、「智」は善悪の判断や構想力、「仁」は国民への深い愛、「勇」は決断力や実行力だ。

 角栄氏は、地方の人たちを豊かにしたいと願い(仁)、日本を小さくする「日本列島改造論」を構想し(智)、それを官僚たちの力を駆使して具体化した(勇)。

 伊藤博文は、欧米列強から国民を守るためには(仁)、国民の政治参加が不可欠と考え、法制度をつくり上げ(智)、国民を啓蒙しつつ、最終的に政党内閣を実現した(勇)。

 角栄氏も伊藤も「智・仁・勇」がそろった大政治家であることは間違いない。

 

 

「信念」を説得したサッチャー

 二人とは逆に、官僚やマスコミと対決しながら、仕事を進めるタイプもいる。イギリスのサッチャー元首相がそうだ。

 サッチャー氏は、「社会主義の間違いを打ち砕くことが我々の目的」と確信していた。当然、「巨大な福祉国家」となっていた戦後の英政府を改革し、ソ連の軍事的脅威を取り除くことが仕事の中心となる。

 そのためにサッチャー氏は、自身の信念を閣僚や官僚、マスコミ、そして国民にもぶつけ、説得し続けた。

「お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人がお金持ちになれるわけではありません」

「その人が自分でできること、また自力でやるべきことを、その人に代わってやってあげても、恒久的な助けにはなりません」

 サッチャー氏の「信念」は、プロテスタント系のメソジストの信者として幼少期から形成された。メソジストは「勤勉、自助努力、質素倹約」などの実践を説く。

 サッチャー氏は自身の役割を、「私が正しいと信じていることをはっきりと人々に示し、同意してくれるように説得すること」と自任していた。それだけに反発は大きく、マスコミは「人間性のかけらもない」と非難を浴びせたが、福祉国家の改革もソ連の解体も最終的にやり遂げた。

 国内外の社会主義を終わらせることを構想し(智)、国民一人ひとりを信頼して説得し(仁)、それを成し遂げた(勇)サッチャー氏。角栄氏や伊藤博文とまったく違うタイプだが、「智・仁・勇」を発揮した偉大な指導者と言える。

 

 

サッチャー氏に近いトランプ流

 こうして見ると、官僚やマスコミと正面から対決するトランプ氏の政治手法は、サッチャー氏のスタイルに一番近そうだ。

 マスコミや官僚の抵抗にあいながらも、サッチャー氏は「社会主義のイギリス」に嫌気がさした国民の支持を10年以上受け続けた。トランプ氏もまた、オバマ時代に強まった「社会主義のアメリカ」を転換し、働く場を国内に増やし、国民の所得を増やそうとしている。

 外交・安全保障では、ロシアと組んで、中東の安定と中国の覇権阻止を目指しているとされる。アジアでの冷戦を終わらせることができれば、レーガン米大統領とサッチャー首相のコンビによるソ連との冷戦終結に匹敵する仕事となる。

 あまり知られていないが、トランプ氏には宗教家的な顔がある。

 今年5月、キリスト教系のリバティ大学の卒業式でスピーチし、こう語った。

「アメリカは真なる信仰者の国です」

「アメリカの物語とは、深い信仰、大きな夢、謙虚さを持って始まった冒険の物語なのです」  サッチャー氏にも負けない「信念」であり、信仰心だ。

 

米バージニア州のリバティ大学で演説するトランプ氏。写真:AP/アフロ

 

 

大政治家への生みの苦しみ

 トランプ氏の仕事を評価するのはまだ早い。目指しているものを「智・仁・勇」の観点から見るならば、トランプ氏は、「中東と東アジアの平和の実現を構想し(智)、国民一人ひとりの成功を願い(仁)、抵抗する官僚やマスコミと戦っている(勇)」ということになるだろうか。

 官僚やマスコミを説得し続けたサッチャー氏にならうならば、トランプ氏は自身の「ツイート砲」を武器に、このまま突き進んだほうがいいということになる。

 オバマ政権時代の官僚たちが一掃され、トランプ氏に賛同する人材と入れ替わるには、長くて1年かかる。マスコミに対しては、彼らの良心に訴えかけ、「弾劾運動」は無益であることを気づかせるしかない。

 それまではトランプ氏にとって、「智・仁・勇」を備えた大政治家となる"生みの苦しみ"の期間となる。

(綾織次郎)

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