北方領土の歯舞(はぼまい)群島・貝殻島から西方に3.7キロに位置する北海道・納沙布(のさっぷ)岬。ここからは、ロシア船が行き交う様子を見ることもできる。この岬のレストハウス「請望苑(せいぼうえん)」は、望郷の思いにかられ、岬を訪れる北方領土の元住民などを、親子二代で迎えてきた。現在、店主を務める竹村秀夫氏に話を聞いた。

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――創業者であるお父様は、「歯舞村」の村長をされていたそうですね。

竹村秀夫氏(以下、竹): 今は根室市と合併しているのですが、1959年まで存在していたのが「歯舞村」で、根室半島の一部と、歯舞群島を管轄していました。私は、根室側にあった歯舞村の本村で昭和26年(1951年)に生まれました。実家は旅館と食堂を営んでおりました。

父親は終戦当時、漁業組合の会長をしていました。もともと缶詰会社を経営していたので船を複数所有していたのですが、十数隻の船がソ連に拿捕されましたし、海難者も出ています。そこから歯舞村の村長になっています。父たちが返還運動を始めたのは、終戦の年の12月に、GHQに対して「なぜアメリカは北方領土を占領しなかったのか」と3人で懇請陳情書を提出したのがはしりだった、と聞いています。