By 總統府 (11.28 總統出席「第二屆『總統創新獎』國際創新論壇」時致詞)

アメリカ次期大統領のドナルド・トランプ氏は台湾総統である蔡英文氏と直接の電話会談を行った。1979年の米中国交正常化以来、アメリカの大統領または次期大統領が台湾総統との会談を行うのは初めてである。米ワシントン・ポスト紙は、複数のスタッフの話として、「会談は数週間前から準備されていた」と報じている。

トランプ氏は立て続けに、中国のメンツを潰す行動に出ている。蔡氏は来年1月、米次期首席大統領補佐官のプリーバス氏とニューヨークで会談する予定だ。同氏はトランプ氏の対中政策を支える主要人物の1人とされる。アメリカと台湾の結びつきはこれから強まっていきそうだ。

トランプ氏の台湾接近がこれほど大きく報じられている理由の一つに、アメリカが台湾に対して、付かず離れずの態度を取り続けてきたことがある。以下の歴史を見れば、今回のトランプ氏の一連の行動は極めて異例であることがわかる。

  • 1971年、国連総会において中華人民共和国と繋がりの深かったアルバニアの提案によって、国連安保理常任理事国を中華民国(現在の台湾)から中華人民共和国へと変更することが決議された(アルバニア決議)。これに抗議する形で、中華民国は国連を脱退。

  • 1972年、アメリカ大統領ニクソンが突然、北京を訪問し、中華人民共和国を国家承認する意向を認めた。これには、冷戦においてソ連と中国を引き離す狙いがあったと言われている。

  • 1979年1月、アメリカは正式に中華人民共和国を国家承認し、アメリカと中華民国の正式な国交を断絶した。以後、アメリカ大統領と台湾総統の会談は行われてこなかった。

しかしアメリカは同年4月、「台湾関係法」という法律を定め、引き続き中華民国に対して武器供与などを可能とし、実質的な国交は維持することを示した。こうして中華人民共和国を正式な「中国」と認めつつ、中華民国の方も現状維持のままという非常にわかりにくい状況が始まる。

  • 1995年、第三次台湾海峡危機が発生。アメリカとの関係をより緊密にする考えを持っていた李登輝総統(当時)の訪米に対して中華人民共和国(以下、中国)がミサイル発射で抗議。これに対してアメリカは、空母などを派遣し中国に対して武力牽制を行う。

  • 1997年、アメリカは中国の市場に目をつけ、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を後押しするなど、再び中国寄りの政策を取りはじめる。

  • 2016年、トランプ氏が蔡英文氏と電話会談。

以上の流れから分かるように、アメリカは、ソ連に対抗するために中華人民共和国と関係を良くする一方で、台湾とも手は切らなかった。そして、いざ、中国と台湾の関係が悪化すると、台湾に味方する。その直後、中国の経済成長が見込めると、中国寄りの政策を取る。

このように、アメリカの対台湾政策は一貫性を欠いていたとも言えるだろう。これに対して中国は一貫して台湾併合を国家戦略として掲げている。

今回、「初」の電話会談を実現し、台湾寄りの側近が対中外交を務めるトランプ新大統領の誕生を機に、今後のアメリカの一貫した台湾政策を期待したい。

こうした政策は、日本にとっても望ましい国際情勢を生む。台湾の近くには日本へ輸送される石油が通るシーレーンがあるため、台湾を中国に併合されてしまえば、エネルギー供給の手段を中国に握られることになってしまうからだ。

日本にとってベストの戦略は、アメリカと台湾の関係を上手く取り持ちつつ、台湾を国家承認することだろう。それによって台湾を国際社会に正式に復帰させ、日本と台湾を同盟関係にまで持っていくことが、日・米・台で中国の拡大に対する抑止力となることだろう。(瑛)

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