厚生労働省が今年度の最低賃金(時給)の改定額を発表した。全国平均の最低賃金額は823円となり、現在より25円アップする。これは、2002年以降最大の引き上げ幅だ。10月より順次適用される。

安倍政権は中期目標として、全国の最低賃金1000円を目指しており、最低賃金の引き上げは引き続き行われる見通しだ。

最低賃金引き上げで弱者救済はできない

最低賃金を引き上げる理由は低所得者層の救済にあるとされる。だが、この政策は本当に低所得者にとってメリットがあるのだろうか。

一橋大学の川口大司准教授らは、独立行政法人「労働政策研究・研修機構」機関誌に寄稿した論文で、最低賃金労働者の特性と、最低賃金引き上げによって就業率はどのように変わるかという分析を行っている。

それによれば、最低賃金で働く人たちは、必ずしも貧困世帯に属しているわけではないという。たとえば、2002年は、最低賃金で働く労働者の約半数が、年収500万円以上の世帯の世帯員だったという。

すなわち、最低賃金の引き上げでは、貧困世帯の救済には直結しない。

また、最低賃金の水準が引き上げられた場合、雇用に影響を受ける人たちは、若年男性や中高年女性といった層が多いことも明らかになった。すなわち、仕事に熟達していない労働者の雇用が失われるということである。

人件費増加による、中小企業への波及

雇用を生み出している企業への影響も大きい。

日本総研は、労働コストの増加を受けて企業が雇用を減らし、失業が増える可能性と同時に、人件費増加によって企業業績が圧迫される可能性に懸念を示している。

2014年の国税局資料によれば、資本金500万円以下の規模の小さな企業は7割近くが赤字となっており、賃上げの余裕がない企業が多数あると指摘している。

たとえ現在赤字が出ていなくとも、人件費が増加すれば、未来事業に投資する余力が失われる。そうしたら企業の発展は止まり、場合によっては事業を継続することもできなくなるかもしれない。

最低賃金を上げるより、企業の活性化を

最低賃金を上げることは、規模、業績、業種に関係なく、すべての企業に何らかの負担を強いるということだ。これは事実上の増税といえるだろう。

雇用を増やし、労働者の賃金を上げるためには、企業そのものの発展、事業拡大が前提だ。そのためには、最低賃金を上げるのではなく、企業が新規事業に投資できるよう、むしろ減税や規制緩和などによって企業の負担を減らすことが必要となる。

目の前の給料が上がることは労働者にとっては短期的にはありがたいことで、賃上げを行った政府への支持も集まりやすいのだろう。だが、それが長期的に見て経済発展につながるとは限らない。民間の仕事に口を挟むことによって、経済に悪影響を及ぼすことを理解しなくてはならない。 (片)

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