古都・京都の景観でさえ、多くの電柱で損なわれている。

電線を地中に埋めて地上の電柱をなくす「無電柱化」について、安倍晋三首相がこのほど、無電柱化を推進する山下和弥・奈良県葛城市長らと会談し、推進の要請を受けた。安倍首相は、「国民誰もが賛成する話だ。2020年東京五輪・パラリンピックまでにスピードを上げて進めたい」と述べ、理解を示した。

国民3.5人に1本の電柱

国土交通省によると、全国にある電柱の数は、約3552万本(2012年度末)。実に、国民3.5人当たり、1本の電柱がある計算となる。誰しも、歩いている途中で電柱にぶつかった経験はあるのではないだろうか。それほど、日本は「電柱大国」なのだ。

近年でも、年間約7万本ペースで増え続け、街には"電柱並木"ができた結果、景観が損なわれている面は否めない。東京都生活文化局が2005年に行った世論調査によれば、景観を悪くさせるものとして、電線と電柱の回答が8割に上ったほどだ。

戦後復興で電柱が急増

これだけ多くの電柱が建てられたのには訳がある。

先の大戦により、多くの建築物が空襲で焼け野原になったため、戦後、復興をいち早く進めるには、電柱を建てた方が効率的だった。増え続ける電柱は、ある意味で、戦後復興の流れをそのまま受け継いでおり、インフラ整備の考え方自体が古いとも言える。

震災で電柱が次々倒壊

そうした中、東日本大震災などの大規模震災では、多くの電柱が倒壊した。その原因の約8割が、他の建造物の倒壊に巻き込まれたためだと言われている。

倒れた電柱が道路をふさいだことで、消防車や救急車の活動が妨害され、人命救助が遅れるケースが相次いだ。人の命を守る「インフラの使命」から見ても、無電柱化の意義は大きい。

無電柱化は、作業時間が長いなどでコストはかかるが、経済活動と雇用創出を押し上げる効果もある。多くのインフラ設備が老朽化している現状を考えれば、必要な投資をすべき時にある。

(山本慧)

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