今月15日にスイスのジュネーブで行われる国連女子差別撤廃委員会の会合に向けて、日本政府はこのほど、「慰安婦の強制連行には証拠はない」とした文書を同委員会に提出した。この提出文書の内容に関する説明会(主催:男女共同参画推進連携会議)が4日、東京都内の日本学術会議で開かれた。会場には、市民団体を中心に約130人が集まった。

政府が提出した文書は、昨年8月に同委員会から送られてきた質問に対する回答だ。

たとえば同委員会は日本に対し、「強制的連行を示す証拠はなかった」という政府見解についてのコメントを求めた。これに日本側は、「日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる『強制連行』は確認できなかった」と反論した。

外務省の女性参画推進室長・松川るい氏は、同委員会の会合について、「(日韓両国がお互いを批判しないと盛り込んだ)日韓合意を守りながら、その範囲で必要なことについては、丁寧に説明する方針で臨みたいと思う」と説明した。

説明会では、参加者同士の口論が見られ、中には「早く質問を打ち切れ!」などの怒号も飛び交うなど、会場内はたびたび騒然となった。

なぜ外務省は今になって……

とはいえ、日本政府側は、日韓合意に反する主張ができないため、国連で繰り広げられる「慰安婦は性奴隷」などという指摘を強く否定するには、おのずと限界がある。このままでは形式的な反論にとどまり、慰安婦問題に端を発する、いわれなき中傷を正すこともできないだろう。

そもそも、2007年3月に閣議決定された答弁書には、こう書かれている。

「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」

少なくとも2007年の時点では、政府は「強制連行の証拠がなかった」と公認していたのに、なぜ外務省は今ごろになって、そうした事実を国連の場で説明するというのか。明らかな怠慢と言わざるを得ない。

今回の文書の提出に先立ち、安倍晋三首相は、1月18日の参院予算委員会で、「性奴隷、あるいは(慰安婦の数が)20万人といった事実はない。政府として、それは事実ではないと、しっかりと示していく」と発言している。強制連行の有無だけ取り上げたことは不十分であり、性奴隷を明確に否定した首相の答弁が文書に反映されてしかるべきだろう。

(山本慧)

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