政府は、環太平洋経済連携協定(TPP)の国内対策をまとめた政策大綱を25日、決定した。中小企業の海外進出の促進や農産物の輸出強化を掲げ、「攻め」の姿勢を強調するが、実際は関税の削減や撤廃で打撃を受ける農家への保護策も目立ち、「守り」が厚い内容となっている。注目の集まっていたコメは、政府備蓄米の買い取り量を増やし、価格を安定させる方針の継続で、"聖域"を護った。
今回、コメ農家保護策が多かった背景には、来年夏の参院選をにらみ、農家の不安を払拭したいという政権の思惑がある。25日付の産経新聞でも「参院選『守り』目立つ」と見出しを立てて指摘している。
実際、一定の耕地面積または販売金額の基準を満たす農家の64%がコメを作っており、約115万戸と圧倒的に多い。いわば大票田であるため、安倍政権としてもここからの反発は避けたい。一方、コメよりも"集票力"に欠ける野菜類や果樹類の保護策はそれほど手厚い内容とはなっていない。
コメ農家保護を続けることは農業の弱体化を招く
これまで、政府は「減反」「農地法」「農協」などによって、コメ農家を長期的に保護し、補助金を投入してきた。日本のコメ農家を管理し、永続的に守り続けることは、さらなる日本農業の弱体化を招く。安倍政権の「攻めの農業」にも逆行するはずだが、今回の大綱からは改善の兆しは見えてこない。
しかし、そんな中でも、農業をビジネスとして捉えて発展を続けるコメ農家が活躍している。
例えば、秋田県の藤岡農産は「あいかわこまち」という独自ブランド米を生産・販売している。田んぼにアイガモを放って無農薬・低農薬栽培を実現し、商品の差別化を図るとともに、東京都内に営業スタッフを常駐させ、直接販売で販路を拡大している。
また、茨城県の横田農場は収穫時期の異なる多品種栽培によって効率的な栽培を推進。ITを総合的に活用し、田んぼの特性や気温、作業の進捗を管理する他、大規模化によって平均的な生産コストを半分にしている。コメのスイーツ作りにも挑戦するなど幅広いビジネス展開も特徴的だ。
安倍首相は「攻めの農業」で、農業の成長産業化、地域経済の活性化をねらいとしている。「守り」に追われることなく、農業をビジネスとして捉え、自助努力の精神で挑戦する積極的な農家の後押しを期待したい。(HS政経塾 油井哲史)
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