2020年開催の東京オリンピックの公式エンブレムをデザインしたアートディレクターの佐野研二郎氏は1日、エンブレムの使用中止を申し出た。ベルギーのデザイナーが、自身がデザインした劇場ロゴと類似しているとして、訴訟を起こしていた件だ。

佐野氏は、「模倣や盗作は断じてしていない」と一貫して説明している。だがネットやメールなどでの批判が止まず、「これ以上は、人間として耐えられない限界状況だ」と、取り下げを決断したという。大会組織委員会も「国民の理解を得られない」と判断し、使用中止を決めた。新国立競技場の建設計画の白紙撤回に引き続き、組織委は大きく信頼を失墜した形だ。

ネット上で匿名のバッシング

この騒ぎに、ある種の既視感(デジャヴュ)を感じないだろうか。

佐野氏の模倣疑惑は、ベルギーのデザイナーがネット上で指摘したことを皮切りに、サントリービールのトートバッグの模倣や写真の無断転用など、いずれもネット上で匿名で指摘され続けた。

これは、小保方晴子氏がネット上でSTAP細胞論文の不自然な点を匿名で指摘され、その後、マスコミの一斉バッシングも加わって論文の撤回や理化学研究所の退職に追い込まれた経緯とよく似ている。

佐野氏は1日の夜、自身の事務所ホームページに次のように記した。

「残念ながら一部のメディアで悪しきイメージが増幅され、私の他の作品についても、あたかも全てが何かの模倣だと報じられ、話題となりさらには作ったこともないデザインにまで、佐野研二郎の盗作作品となって世に紹介されてしまう程の騒動に発展してしまいました」

「毎日、誹謗中傷のメールが送られ、(中略)家族や無関係の親族の写真もネット上にさらされるなどのプライバシー侵害もあり、異常な状況が今も続いています。(中略)繰り返される批判やバッシングから、家族やスタッフを守る為にも、もうこれ以上今の状況を続けることは難しいと判断し、今回の取り下げに関して私自身も決断致しました」

この文面からは、佐野氏が身の危険さえ感じていることが見て取れる。佐野氏が盗作を行ったかどうかは分からないが、これだけ騒動が大きくなってしまっては、佐野氏の今後の仕事にも支障が出るだろう。

批判には、相手に対する「愛」が必要

ネット上での匿名の批判の激化が発端となって、職業上の道もほぼ断たれてしまうような事件が増えている。佐野氏や小保方氏に限らず、発言の一部が独り歩きしてバッシングを受ける人もいれば、政治家にも失言で失職する人もいる。しかし、そうした人たちの行為は、職を奪われ、家族にも危険が及ぶような仕打ちを受けるほどのものだろうか。

ネット上で匿名で疑惑を追及している人たちの心理の中には、「悪を正す」という気持ちもあるだろう。しかし一方で、「成功者への嫉妬」もくすぶってはいないだろうか。そこに匿名性が加わることで、批判が過激になり、相手への配慮が乏しくなる面があるのではないか。それは、批判の対象が一人の場合、“集団リンチ"のような形になってしまう。

疑惑追及をすること自体は悪いことではないが、「敵に塩を送る」という故事もある。戦国武将の上杉謙信が、敵だった武田信玄の領民が苦しんでいることを知り、塩を送って苦境を救ったという逸話だ。批判にも、相手に対する「愛」が必要だ。(泉)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『小保方晴子博士守護霊インタビュー』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1493

幸福の科学出版 『小保方晴子さん守護霊インタビュー それでも「STAP細胞」は存在する』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1144

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2015年7月2日付本欄 「STAP細胞はやはり存在する」 小保方氏守護霊が悔しさを吐露

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2015年10月号記事 新国立競技場問題 下村博文文科相の責任を問う - The Liberty Opinion 8

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10067