岩手県の中学2年生がいじめを苦に自殺したとみられる事件で、学校内での調査結果を受け、文部科学省はいじめ対策の9項目のチェックリストを4日発表した。5日付各紙が報じた。

学校側が7月26日に出したいじめ調査報告書では、いじめが疑われる13件の行為が検証され、6件がいじめと判定された。一方で、7月7日に学校内で446人の生徒に行ったアンケートでは、この13件の他に「柔道のように投げていた」などのいじめが疑われる10件の事例が報告されている。

自殺した生徒は、担任に毎日提出していたノートでいじめ被害を訴えていたが、担任は他の教員に伝えていなかった。この中学校が独自に定めた「いじめ防止基本方針」では、いじめの情報共有などを定めていたが、実施されていなかったことが明らかになった。

担任の教師は8月4日、生徒の父親に謝罪。担任は生徒の父親に対し、校内で情報共有できなかったことについて、「生徒指導主事は4月から新しくなったので信用ができなかった」などと説明した。

文科省は、この中学校にいじめに対応する組織はあり、きちんと対応していれば自殺を防げた可能性は高いと検証の結果を報告。こうした状況の学校が他にもある可能性を懸念し、「些細な徴候や懸念、訴えを一人の教員で判断せず、すべて対策組織に報告すること」や「いじめの把握がマイナス評価につながるものと考えず、問題を隠さないこと」などとするチェックリストを全国の教育委員会などに通知した。

例年、夏休み明けの9月1日に、18歳以下の自殺が急増していることから、文科省は学校側に対し、夏休み中にいじめ対策を行い、各教委に報告するよう求めた。

児童・生徒がいじめが原因で自殺したことが疑われると、その事件を教訓とした対策が講じられることが多い。しかし、今回の対策では、まだ不十分な点が見受けられる。

まず、「問題を隠さないこと」としているが、教師がいじめを報告しなかった場合の罰則は定められていない。そのため、隠ぺい体質の学校に改善を促すにも限界があると予想される。

また、こうしたチェックリストの内容が、学校で教師に周知徹底されない恐れもある。現に、いじめ解決の専門家、一般財団法人「いじめから子供を守ろうネットワーク」代表の井澤一明氏によると、最近、いじめについての講演で訪れた学校の教師が、2013年に制定された「いじめ防止法」の内容をほとんど知らないことに驚いたという。

夏休み明けにいじめを苦に自殺する子供が多いなら、「自殺を考える前に学外の専門家に相談する」「転校という選択肢もある」といった手段についてもさらなる告知が必要だろう。そうすれば、悩んでいる子供や家族は夏休みの間に行動できる。

「いじめゼロ」をよしとするのではなく、「いじめにきちんと対応してきた」学校を高く評価すべきだ。学校の教師が「いじめは許さない」という姿勢を崩さず、小さなサインを見逃すことなく対応すれば、防げる悲劇はある。(居)

【関連サイト】

一般財団法人 「いじめから子供を守ろうネットワーク」

http://mamoro.org/

【関連記事】

2015年7月9日付本欄 岩手いじめ自殺は止められなかったのか? いまだに残る隠ぺい体質

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9879

2014年5月号記事 【最終回】いじめは必ず解決できる

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7551